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急に頭痛を感じたら―脳動脈瘤のお話― 岡山大学脳神経外科講師 菱川朋人氏

菱川朋人氏
菱川朋人氏
急に頭痛を感じたら―脳動脈瘤のお話― 岡山大学脳神経外科講師 菱川朋人氏
急に頭痛を感じたら―脳動脈瘤のお話― 岡山大学脳神経外科講師 菱川朋人氏
 紙上講座第7回目(最終回)は脳卒中と頭痛をテーマに最新の知見を紹介します。

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 頭痛にはさまざまな原因がありますが、最も怖いのはくも膜下出血による頭痛です。くも膜下出血による頭痛はガーンと突然頭が痛くなり、一瞬にしてピークに達します。「後頭部をバットで殴られたような頭痛」と表現されます。くも膜下出血は命にかかわる重篤な病気で、脳動脈瘤(りゅう)の破裂によることがほとんどです。ここでは脳動脈瘤についてお話ししたいと思います。

 脳動脈瘤は動脈の壁が弱くなり風船のように膨らんだもので、これが破れるとくも膜下出血になります。脳動脈瘤が破裂すると3分の1の方が即死または瀕死(ひんし)の状態に陥り、3分の1の方が大きな後遺症を残し、回復される方は3分の1(完全社会復帰できる方は全体の6分の1)と言われています。破裂したことがない脳動脈瘤は未破裂脳動脈瘤と呼ばれます。未破裂脳動脈瘤は破裂しない限り、特殊な例を除いて症状を出すことはありませんので、偶然発見されることがほとんどです。近年はMRI(磁気共鳴画像装置)検査の普及により未破裂脳動脈瘤の発見率が高くなっており、国民の3~6%が未破裂脳動脈瘤を持っていると言われています。日本では1年間に未破裂脳動脈瘤が破裂する率は約1%で、動脈瘤の大きさ、部位、形状が破裂のしやすさに関係することが分かっています。

 未破裂脳動脈瘤は破れる前に安全に処置するのが理想的です。動脈瘤の大きさ、部位、形状から破裂する危険性と、治療に伴う危険性を勘案して患者さんと相談しながら治療方針を決定します。治療しない場合は半年か1年ごとにMRI検査を行います。一方で破裂脳動脈瘤は救命目的に緊急治療を行うことになります。脳動脈瘤治療の目的は、未破裂脳動脈瘤の場合は破裂予防を、破裂脳動脈瘤の場合は再破裂を防止することにあります。現代の医療では脳動脈瘤をお薬で治すことはできませんので外科治療を行うことになります。

 外科治療には開頭によるクリッピング術と、血管内治療によるコイル塞栓術があります。長年、クリッピング術が外科治療の中心であり、有効な治療法として確立しております。開頭を行い脳と脳の間のスペースを通って動脈瘤に到達し、動脈瘤内に血流が入らないようにチタン製のクリップで動脈瘤の根元を閉鎖します。

 コイル塞栓術では太ももの付け根の動脈に管を入れ、ガイドカテーテルと呼ばれるチューブを頭頚部に向かう動脈まで送り込み、その中を非常に柔軟で細いマイクロカテーテルと呼ばれるチューブを頭の中まで進めて、脳動脈瘤の中に挿入します。ここから柔らかくて細く、ループ状に形状記憶されたプラチナ製のコイルと呼ばれる塞栓物質を脳動脈瘤の中に充填(じゅうてん)していきます。コイル塞栓術では脳動脈瘤の内側にコイルを詰めて塞栓することで、脳の正常血管を残しながら脳動脈瘤だけを塞(ふさ)ぎ、血流が瘤(こぶ)の中に入ってくることができないようにします。近年、血管内治療の治療機器の進歩が目覚ましく、バルーン(風船)付きカテーテルや頭蓋内動脈用ステントを用いることでかなりの脳動脈瘤をコイル塞栓術で治療することが可能になりました。フローダイバーターというステントは、脳動脈瘤が発生した動脈にステントを置くだけで瘤が消失するという効果を持っており最先端の血管内治療と言えます。

 患者さんは頭を切らなくて済むコイル塞栓術を希望されることが多いですが、クリッピング術とコイル塞栓術のどちらが良いかは明確な答えは出ていません。クリッピング術とコイル塞栓術は競いあうものではなく、お互いに補い合ってより安全な治療につなげなければいけません。そのためにはクリッピング術とコイル塞栓術をバランスよく行っている病院で相談、治療されることをお勧めします。

(2021年10月16日 15時55分 更新)

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