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異例尽くめの雄町サミット 造り手からは感謝の声も

「第12回雄町サミット」区分Ⅰ(吟醸酒の部)の優等賞受賞酒
「第12回雄町サミット」区分Ⅰ(吟醸酒の部)の優等賞受賞酒
8名の審査員が出品酒を1点1点きき酒。「雄町」らしいふくよかさ、味わいといった点に重きを置き、慎重に評価していった。また、当日の運営はスタッフ全員が検温、手指消毒に加え、白衣にキャップ、マスク着用を徹底して実施された
8名の審査員が出品酒を1点1点きき酒。「雄町」らしいふくよかさ、味わいといった点に重きを置き、慎重に評価していった。また、当日の運営はスタッフ全員が検温、手指消毒に加え、白衣にキャップ、マスク着用を徹底して実施された
市田真紀さん
市田真紀さん
 今年で12回目を数える「雄町サミット」(JA全農おかやま、岡山県酒造好適米協議会、岡山県酒造組合主催)が9月24日、岡山市内で開かれた。「雄町サミット」とは、岡山県が誇る酒米「雄町」と岡山県産「雄町」で醸した日本酒の魅力を広く伝える目的で行われるイベントで、例年は東京都内で開催。全国各地の酒蔵が手掛けた「雄町」の酒の歓評会(審査会)や日本酒業界関係者対象の「唎(き)き酒会」、そして「オマチスト」と呼ばれる熱心な愛好家も参加できる懇親会が催され、大変な盛り上がりを見せてきた。数ある日本酒関連の品評会やイベントの中でも1品種の酒米をテーマにした企画は稀有であり、10年以上もの長きにわたって業界内外から注目を浴び続けること自体誇るべきことである。発見から160年余に及ぶ歴史を持つ酒米品種の尊さもさることながら、原生種の血を今に受け継いできた生産者や「雄町」に魅せられてきた酒蔵の造り手たち、さらには酒米「雄町」と「雄町」で醸した酒を愛する飲み手あってのイベントであることを、「雄町」の産地に暮らす一人として誇らしく思う。

 しかし、昨年は新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から開催を中止。2年ぶりに実施された今回も、同様の理由から異例尽くめのイベントとなった。その一つが、開催日程である。今年は飲食を伴う懇親会を中止し、歓評会と「唎き酒会」については9月初旬に行う予定で準備を進めていた。ところが岡山県に緊急事態宣言が発出され、開催直前に急遽延期を発表。日程を9月24日に振り替えるも、まん延防止等重点措置下ということもあり、最終的には歓評会のみに。しかも、完全非公開で行われることが決まったのだ。致し方ないこととはいえ、主催関係者や業界関係者の落胆はいかばかりか。

 これだけ振り回されることになるのであれば、はじめから中止にすればよかったのでは――そんな声も聞こえてきそうである。実際、去年は早々に中止を決めた代わりに広報活動を強化。SNSを活用してオマチストとのコミュニケーションに力を注ぎ、新たなファン獲得に導いてきた。それでも、生産者と酒蔵と飲み手とを直接つないできた「雄町サミット」に並ぶ成果を期待するには限界がある。結果的に非公開での開催は避けられなかったが、歓評会を通じて「雄町」の素晴らしさや「雄町」で醸した酒の多様な魅力を発信する機会をなんとか得られたことをポジティブに捉えたい。これもひとえに関係者の人数を最小限に絞り、感染対策の徹底に奔走した主催者と、協力を惜しまなかったスタッフによる尽力の賜物だと思う。来年以降の継続開催に向けた大きな一歩にもなった。難しい状況の中、審査を快諾してくださった先生方に対しても、一人の「雄町」ファンとして感謝の気持ちでいっぱいだ。

 33道府県134軒の酒蔵から215点が出品された岡山県産「雄町」の酒は、厳正な審査の結果、区分Ⅰ(吟醸酒の部)27点、区分Ⅱ(純米酒の部 精米歩合60%以下)10点、区分Ⅲ(純米酒の部 精米歩合60%超)8点の計45点が優等賞を受賞。歓評会に出品した酒蔵からは、結果に対する悲喜こもごもの声が聞かれた。また、困難な状況下で開催された「雄町サミット」に対する熱い想いや主催者らへの感謝の言葉、あるいは酒米「雄町」の素晴らしさにあらためて触れる参加酒蔵らの声に接し、胸に迫るものがあった。それは、12回の開催を誇る「雄町サミット」がイベントの枠を越えて、生産者と酒蔵、さらには酒販店、飲食店、飲み手とをつなぐ存在として認知されてきた証であり、今後の継続開催を確信するものでもあったからこそ。来年こそは業界関係者やオマチストも一堂に会し、盛大かつにぎやかに「雄町サミット」が催されることを心から願っている。

     ◇

市田真紀(いちだ・まき) 広島市出身の日本酒ライター。最近の主な活動は、日本酒業界誌『酒蔵萬流』の取材執筆や山陽新聞カルチャープラザ「知る、嗜む 日本酒の魅力」講師など。このほか講演やイベントの企画・運営を通して、日本酒や酒米「雄町」の認知拡大を図っている。夏は田んぼ、冬季は蔵が取材フィールド。たまに酒造り(体験・手伝い)。SSI認定きき酒師、同日本酒学講師。J.S.A SAKE DIPLOMA取得。1970年生まれ。

(2021年10月05日 11時30分 更新)

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