山陽新聞デジタル|さんデジ

エイジレスは脳が決め手 倉敷平成病院脳神経内科部長 菱川望氏

菱川望氏
菱川望氏
図1
図1
図2
図2
図3
図3
 紙上講座第6回目はアンチエイジングと骨折をテーマに最新の知見を紹介します。

     ◇

 食事や運動、睡眠、喫煙などの生活習慣は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病だけでなく、認知症とも深く関連しています。例えば、認知症の中で最も多いアルツハイマー病では、もの忘れが始まる20年以上も前から脳にアミロイドβ蛋白(たんぱく)という“ゴミ”の蓄積が始まり、次第に神経細胞が変性・脱落して、脳が萎縮してきます。こういう変化がなぜ起こるのかということは、まだはっきり分かっていませんが、糖尿病などの生活習慣病を放置すると、この“ゴミ”が溜まりやすい脳内環境をつくってしまうことが知られています。ただ、これらの生活習慣病を持っていてもきちんと治療することによって、将来認知症になるのを予防できることも知られていますし、すでに認知症と診断されていても、生活習慣病を予防したり、治療したりすることによって、認知症の進行や脳萎縮の進行が抑制されることも報告されていますので、これらを治療するのに遅いということはありません。

 私たちは脳を健康に保つために、“今、何をしたら良いか”をテーマに、地域の検診受診者にご協力いただき、認知機能や生活習慣の実態調査を行ってきました。その結果、趣味を持っている人や運動習慣のある人は、そうでない人と比べて認知機能が保たれ、“やる気”や“うつ”などの心の状態も安定していたという結果が得られ、運動習慣がある人はそれを、また体を動かすことが苦手な人でも趣味を持ってそれを継続することが認知症の予防につながると考えています。

 また、地域の介護予防事業の一環としてヨガや有酸素運動、呼吸法を取り入れた運動プログラムを作り、地域の方にご協力いただき(388人、平均年齢75.5歳)介入研究を行いました。その結果、運動開始の半年後には、バランス力や歩行速度などの身体的機能の維持・改善だけでなく、介入前に認知症が疑われた人もそうでない人も、記憶力や注意力などの知的機能が改善(図1)し、さらに「うつ」や「やる気」などの情動機能についても改善していたことが分かりました(図2)。

 図3に具体例を示しています。上の例は、運動介入前に立方体の模写が平面図しか描けなかった方が、半年後には正確ではないものの改善しています。下の例では時計の描画がかなり正確に描けるようになっていることが分かると思います。また、研究に参加していただいた方からは、「足の色が良くなった」「走れなかったのが、追いかけっこくらいはできるようになった」といった身体的な改善や、「気持ちが明るくなった気がする」「体に変化はないけど楽しい」というような気持ちの変化や、さらには「運動を通して地域の人との交流が増え、地域が活気付いたようだ」といった予想していなかった声もありました。運動による認知症予防のメカニズムについては、適度な運動によりテストステロンや神経栄養因子が増え、脳の“ゴミ(アミロイドβ)”の分解が促進されたり、それらが凝集して毒性を発揮するのを抑制したり、神経細胞の新生、再生が促されたりするといわれています。またセロトニンが増えることによっても、脳内の“ゴミ”の凝集を抑制するだけでなく、情緒も安定するといわれています。また、この研究で使った運動にはヨガも入れていますが、ヨガには記憶トレーニングと同等の効果だけでなく、うつに対する効果や、脳の萎縮を予防する効果も報告されています。

 先日、たまたま読んでいた谷崎潤一郎の「懶惰(らいだ)の説」に“「怠け者の養生法」も忘れてはならない”という文を目にしました。彼が書いているように、カロリーだのビタミンだのとやかましく言って時間や神経を使うよりも、何もしないで寝転んでいる方が賢いという考え方もあります。確かに、あれこれと健康について考えて神経質になりすぎるより、好きなものを食べて、好きなことをして楽しく過ごす方が健康に良いというのも確かなことです。ただ、いくら“怠け者”でも怠けることに飽きてしまうでしょうし、真面目な人でもたまには怠けたい時もあると思います。そういった時の「怠け者の養生法」を一つ。椅子に座って背筋を伸ばして、あるいはあおむけ寝転んでリラックスし、目をつぶって、呼吸に意識を集中し、ゆっくり深い呼吸を繰り返してみてください。それを毎日少しずつ繰り返しているうちに自律神経のバランスが整い、気持ちが安定しストレスが緩和したり、睡眠の質が良くなったり、末梢の循環が良くなったり、あるいは気持ちが前向きになってくると思います。

 生きるということは横軸に、「時」を過ごし年齢を重ねるだけでなく、いろいろな経験を積み、それが宝物となって縦軸に深みを増していくものだと思います。日々の生活の中に、できればいろんな人と交わりながら、趣味や適度な運動を自分のペースで取り入れ、年齢(数字)にとらわれない、活(い)き活きとした“エイジレス”ライフの中でかけがえのない宝物を増やしていただきたいと思います。

(2021年09月25日 15時58分 更新)

あなたにおすすめ

ページトップへ