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高齢者の免許返納 代替手段の議論深めたい

 高齢者の移動手段をどう確保するのか。具体策の検討が急務だ。

 東京・池袋で2019年、乗用車が暴走して母子2人が亡くなり、9人が重軽傷を負った事故の裁判で、運転していた90歳の男性に対する禁錮5年の実刑判決が確定した。

 男性はブレーキと間違えてアクセルを10秒間にわたり踏み続け、最大時速96キロまで加速させ交差点に突っ込んだ。東京地裁は車両の不具合が原因とする男性の主張を退け、操作ミスを認定した。

 無罪を主張してきた男性は「判決を受け入れる」と控訴しなかった。高齢のため、検察が刑務所に収容するかどうかを検討しているという。それでも犠牲になった親子は帰ってこない。真摯(しんし)に罪と向き合ってもらいたい。

 この事故で驚くのは、男性はパーキンソン症候群の疑いがあり、医師から運転しないよう伝えられながら「車のない生活をしようとは考えていなかった」とハンドルを握り続けたことだ。足が不自由で事故の1年ほど前からつえを使い、車庫入れに手間取る様子が近所で目撃されている。周囲もなぜ止められなかったのか。残念でならない。

 高齢者による重大事故が後を絶たず、国は対策強化を進めている。認知機能検査が必要な75歳以上が免許を更新する際に、一定の違反歴があれば運転技能検査(実車試験)を義務付ける改正道交法が来年6月までに施行される。自動ブレーキの搭載を義務化するなど車両の安全性向上も図っている。こうした取り組みによって、悲惨な事故を少しでも防ぎたい。

 同時に求められるのは、運転免許証を返納した後の生活交通の確保である。

 池袋の事故をきっかけに、免許の自主返納が高齢者を中心に急増している。事故が発生した19年は全国で60万1千件と前年から1・5倍近く増えて過去最多となった。岡山県内でも3割増の1万200件と、1万件を突破した。ただ、車が生活に欠かせない地方では買い物や通院などに支障が出るため、手放しづらいのが実情だ。

 自治体が運行するコミュニティーバスやデマンド(予約型乗り合い)タクシーは採算に苦しむ。地域住民らが主体となってデマンドタクシーを運営する岡山県内のケースでは、行政の財政支援がなければ立ちゆかないという。

 高齢化に伴い、75歳以上の運転免許保有者は団塊世代も加わる23年末に全国で712万人に達すると推計されている。岡山県内では14万人程度になる計算だ。返納者の増加が見込まれる中で、代替手段の整備はいっそう重要になってくる。住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるよう生活交通の議論を社会全体でしっかりと深めたい。

 高齢ドライバーを加害者にしないためにも、家族らで返納について話し合っておくことも欠かせない。

(2021年09月25日 08時00分 更新)

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