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侮辱罪の厳罰化 ネット中傷の対策を急げ

 インターネットの会員制交流サイト(SNS)などで誹謗(ひぼう)中傷の被害が後を絶たない。対策強化の一環として、法務省は刑法の「侮辱罪」を厳罰化する方針を固め、法相の諮問機関である法制審議会に諮問した。

 現行の法定刑は「拘留(30日未満)か科料(1万円未満)」だが、法制審では「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」を追加する案を検討する。厳罰化に伴い、刑事責任が問えなくなる公訴時効までの期間も、現行の1年から3年に延長する。

 具体的な事実を示さなくても公然と悪口を言う場合に適用される侮辱罪は、具体的な事例を示して人をおとしめる名誉毀損(きそん)罪に比べて罰則が軽い。1907(明治40)年の刑法制定時には、現在のようなSNSの普及は想定されていなかった。深刻な被害実態を踏まえ、見直しは急務だ。

 厳罰化のきっかけとなったのは昨年5月、女子プロレスラーの木村花さん=当時(22)=がSNSで中傷を受け、自ら命を絶ったことだった。男性2人が侮辱罪でそれぞれ科料9千円の略式命令を受けたが、「軽すぎる」との批判が高まり、国が対応を迫られる形となった。

 木村さんのケースでは、警察が確認した中傷投稿は約300件に上り、書き込みをした人は多数いたとみられる。だが、匿名の投稿者の特定には時間を要し、公訴時効1年の壁もあり、大半は立件が間に合わなかった。公訴時効が見直される意義は大きい。

 基本的人権を侵害するネットの中傷は防がねばならない。ただ、言論に対する政府の介入は本来、最小限にとどめるべきものだということも忘れてはなるまい。政治への正当な批判まで封じるような恣意(しい)的運用を防ぐためには歯止めが必要だ。どのような場合に罪が問えるのか、法制審には十分な議論を求めたい。

 ネットの中傷対策としては今年4月に成立した改正プロバイダー責任制限法で、匿名の投稿者を迅速に特定できるよう、新たな裁判手続きが設けられた。2022年中に施行される。これまではSNS事業者やプロバイダー(接続事業者)を相手に複数回の訴訟を起こさねばならず、被害者の負担が大きかった。速やかに投稿者を特定して告発できるようになれば、抑止につながることも期待されよう。

 昨年、ネット上の人権侵害として被害者らの申告を受け、法務省の人権擁護機関がプロバイダーなどに直接、削除を要請したのは過去最多ながら578件にとどまる。泣き寝入りする被害者は多いとみられ、数字は氷山の一角だろう。相談窓口を拡充するとともに悪質な投稿を監視、削除するなどの事業者の自主的な対策の強化も必要だ。

 軽い気持ちで書き込んだことが相手を傷つけ、時には命を奪うこともある。ネットを利用する一人一人が自覚しなければならない。

(2021年09月22日 08時00分 更新)

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