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行動制限の緩和 出口戦略ありきは危うい

 「出口戦略」ありきで進めるのは危うい。

 政府は、新型コロナウイルスワクチンの接種進展を踏まえて、行動制限の緩和に踏み切る。希望者の接種が完了する11月ごろをめどに実施する方向だ。

 政府の基本方針では、ワクチンを2回接種済みか、PCR検査などで陰性が証明できる人を対象にした「ワクチン・検査パッケージ」を活用する。マスク着用といった基本的な対策は維持しつつ、緊急事態宣言下でも都道府県境をまたぐ旅行ができたり、飲食やイベントの人数制限を緩和したりする。一定の感染対策を保証する第三者認証を受けた飲食店では、酒類の提供や営業時間の延長を認める。

 コロナとの闘いは長期化している。先行きが見えない不安と不満が「コロナ疲れ」や「コロナ慣れ」につながり、感染対策への協力が得られにくくなっているとの指摘もある。飲食業や宿泊業などは立ちゆかなくなるほどの深刻な打撃を受けている。

 政府が社会経済活動を回す方向にかじを切ったのは、ワクチンの接種率が一定水準に達したためである。国内で2回目を接種した人は人口の5割を上回り、今月末には6割を超えて欧州と並ぶ見通しとなっている。だが、クリアすべき課題は山積している。

 政府が「切り札」とするワクチンも万能ではない。重症化などを防ぐ効果があるものの、デルタ株の流行によって接種完了後に感染する「ブレークスルー感染」が各地で確認されている。国民の8割が2回接種を終えたシンガポールでも多数の報告がある。時間がたてば抗体の量が減り、変異株には効きにくくなっている恐れもあるとされる。

 政府はスマートフォンで接種歴が分かる電子証明書を年内に実用化する方針も打ち出した。ただ、ワクチンを柱とした対策が接種を強要する同調圧力を招いたり、未接種の人が不利益を受けたりしないための配慮が求められる。

 運用上の課題を整理するため政府が10月に行う実証実験には大阪府や福岡県などが名乗りを上げる。一方で岡山、広島県は「先が見通せない中で手を挙げられない」などとして参加を見送るという。コロナを巡っては、対策の緩和と感染の再拡大を繰り返しているだけに、行動制限の緩和に対して自治体や医療関係者には慎重論も根強い。

 日常を取り戻すのは国民共通の希望である。ワクチン接種が進み、局面が変わりつつある中で、経済活動を再開させる方向性は理解できる。

 とはいえ、全国の療養者数は約10万人に上り、依然として医療提供体制の確保が最優先であることは言うまでもない。「第6波」が不可避とみる専門家も多い。行動制限の緩和に向けては、データに基づく客観的な分析を踏まえた精緻な制度設計と、感染状況を見極めながらの慎重な運用が不可欠となる。

(2021年09月21日 08時00分 更新)

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