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ネット・ゲーム依存の成り立ちと対策 神戸大学大学院医学研究科精神医学分野教授 曽良一郎氏

曽良一郎氏
曽良一郎氏
図1 ネット・ゲーム依存、リスクのある使用、健常な使用の段階と比率
図1 ネット・ゲーム依存、リスクのある使用、健常な使用の段階と比率
図2 ネット・ゲーム依存と不登校・引きこもりの悪循環
図2 ネット・ゲーム依存と不登校・引きこもりの悪循環
 紙上講座第5回目は「子どもの健康」と「依存症」をテーマに最新の知見を紹介します。

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 依存症はこころの病の中でも最も理解しにくい病気の一つです。人はいろいろなものに「依存」して生きています。何かに「依存」しすぎて困ることがあることから、「依存症」とは日常生活で困る「依存」の延長と捉えがちです。しかし病気ではない「依存」に困れば自ら減らすことができますが、病気である「依存症」は依存行動や薬物の使用を自ら止めることができません。多くの方は「依存症」の行動や薬物の使用は自己責任と捉えていますが、それらをコントロールできなくなるのが「依存症」という病気です。

 「依存症」というこころの病は、薬物(物質)依存と行動(非物質)嗜癖(しへき)に大別されます。依存しやすい薬物の代表が、違法な薬物ではアンフェタミンなどの覚せい剤やオピオイド類の麻薬ですが、合法な薬物ではアルコールやニコチンです。快感を生じさせる行動は全て依存しやすいので、食べること、性行為も依存となる行動です。しかし、行動の中で最も依存しやすいのがギャンブルや今回、お話しするインターネットやゲームです。

 情報化社会となりインターネットの使用は増え、多くの方がゲームを楽しまれていますが、全員が依存になるわけではなく、ネット・ゲーム依存は人口の数パーセントと推測されています(図1)。ネット・ゲームを過剰に使用しているリスクのある人は「依存症」という病気の5~10倍ぐらいはいると推測され、依存の予備軍と考えられます。しかし、「依存症」でも予備軍でもない方が大多数であることから、使用をコントロールできる健常な方が、日常的に使っているインターネットやゲームの「依存症」を理解することは困難なことなのです。

 お酒は人類の文明とともに造られていますので、昔からアルコールへの依存症は知られていました。ギャンブルが行動嗜癖の中で病気として認められたのは、それほど昔ではありません。インターネットやスマートフォンは、使い出してからまだ数十年も経っていませんが、精神科専門医が用いる国際的な診断マニュアルでは2013年にインターネット・ゲ一ム障害(Internet Gaming Disorder、IGD)として提言され、さらに2019年5月にはWHO(世界保健機関)が国際疾病分類の改訂(ICD11)に伴いゲ一ム障害として認定しました。

 依存症は楽しいこと、気持ちいいことを繰り返すと脳の報酬回路が変化してしまう病気です。ゲームの中でも銃撃戦などが題材となるFPS(一人称視点シューティングゲーム)、TPS(三人称視点シューティングゲーム)などのシューティングゲームやMMORPGと呼ばれるオンラインのRPG(ロールプレイングゲーム)は嗜癖性が強いことが知られています。戦略ゲーム、サッカー・野球ゲーム、パズルゲーム、カードゲームやSNS(会員制交流サイト)なども依存しないわけではありません。快感刺激が長期間にわたり繰り返されると脳の報酬回路が変わってしまうので、長時間のネット・ゲーム使用によって依存症が形作られます。学校、仕事から帰って食事や入浴の時間を考えると1日4~5時間が余暇のほぼ全てですので、週30時間以上のネット・ゲーム使用は危険域に達しています。

 子どもではネット・ゲームのやり過ぎで学校の勉強についていけなくなるか、引きこもり・不登校によりネット・ゲームしかやらなくなるのか、どちらが先であっても悪循環となりネット・ゲーム依存が深刻になるケースは少なくありません(図2)。ネット・ゲーム依存の患者の多くは学業、仕事に支障をきたしており、神戸大学病院の専門外来を受診する重症例のケースは家族への暴力や盗みなどの問題行動を伴っていることも多いです。またネット・ゲーム依存では発達障害、特に不注意型の注意欠陥多動性障害(ADHD)をともなっているケースが多いのも特徴です。

 依存症は否認の病気だと言われています。患者自身も長時間のネット・ゲーム使用により社会生活に問題が生じていると分かっていますが、ネット・ゲームが唯一のよりどころになり、やめられないのです。ネット・ゲームを制限したり、取り上げたりするのは依存症になる前であれば一定の効果がありますが、依存症になってしまうと暴力や盗みなどのトラブルに発展します。ネット・ゲームを制限・禁止する保護者は、患者から極めて大切なものを取り上げているという認識が乏しいのです。

 薬物や行動への依存症は慢性の再発しやすい病気であり、依存症への特効薬はありません。治療はネット・ゲーム以外のものを幅広く楽しめるようになり、ネット・ゲームの優先度を下げることが目標となります。しかしネット・ゲームはとても楽しく作られているので、患者がネット・ゲーム以外の楽しいことを見つけることは容易ではありません。家庭、学校、仕事でうまくいかずに苦しい、満たされない、思うようにならないことからネット・ゲームに「逃避している」患者には、苦しい現実に立ち向かうエネルギーが持てるまで寄り添う対応が求められます。

 ネット・ゲーム依存の予防は、健康的な人が依存リスクを伴う段階から考える必要があります。医療界だけでなく、いろいろな業種が一緒になって予防の啓発や対策を進めていくべきです。

(2021年09月04日 15時56分 更新)

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