山陽新聞デジタル|さんデジ

“一品入魂”のおはぎ人気、笠岡 亡き息子の夢引き継ぎ 8周年に

人気のおはぎを並べる安田さん
人気のおはぎを並べる安田さん
 売り場に並ぶのは、おはぎだけ。しかも、こしあんをもち米で包み、きな粉をまぶした1種類しかない。笠岡市中心部にあるその店は「迦音(かのん)」(同市三番町)。安田由紀子さん(74)が夫の健次さん(75)と二人三脚で切り盛りする。

 品数を増やすよりも集中して調理に打ち込め、材料を絞ることで食品ロスも抑えられると考えた。「おはぎ1種類だけの店は、ほかには大分県の1軒ぐらいだと思う」。由紀子さんにそう話したのは、全国のおはぎを調べているという男性。以前、東京から足を運んできた。

 国産の材料と隠し味の塩加減にこだわる。ほどよい甘さと絶妙な口当たりが後を引く。1個100円。そんな“一品入魂”の店を由紀子さんが開いたのは、つらい出来事がきっかけだった。2012年6月、「店を持ちたい」と飲食店で修業していた長男・好寛さんが40歳で急逝。1年近く立ち直れず、ふさぎ込んでいた時、知人から「このままではいけない。あなたが店をやればいい」と励まされ、奮起した。

 好寛さんの夢を引き継ぎたいと思い飲食業に決めた。おはぎにしたのは「ガス釜一つあればできるし、息子の好物だったから」。貸店舗を探し、1カ月で準備を整え、13年8月にオープンした。「ほそぼそでいい」と始めたが、客足は次第に増え、数百個が3、4時間で売り切れるほどに。一度に350個を注文した客もいた。

 来る日も来る日も同じおはぎを作り続けてきた。「飽きないし、楽しくて仕方ない。いくつになっても好きな仕事ができ、『おいしい』と喜んでもらえるのが励み」。失意を乗り越えるきっかけと、生きがいをくれた店は今月、8周年を迎えた。売り場の壁には店名の由来になった観音様の絵。その額に抱かれた赤子を亡き息子に重ねる由紀子さんは「見守ってくれているんでしょうね」とほほ笑んだ。

(2021年08月13日 20時12分 更新)

あなたにおすすめ

ページトップへ