山陽新聞デジタル|さんデジ

ワクチン接種証明 国内運用は慎重な検討を

 新型コロナウイルスワクチンの接種歴を公的に証明する「ワクチンパスポート」について、政府があすから市区町村の窓口で申請受け付けを始める。氏名や旅券番号、ワクチンを打った日付、種類などが記される見込みで、海外の入国審査や宿泊施設で提示することを想定している。

 入国後の隔離期間が免除や緩和される利点があり、海外往来の円滑化に向けて活用が期待される。当面、発行手数料は郵送代を除き、国が負担し、書面によって交付する。スマートフォンのアプリ形式で証明できるようになれば利便性は高まろう。

 同様の証明書は欧州連合(EU)の加盟国が試験運用を進め、今月からは域内共通のデジタル証明書の本格運用を始めた。国境越えの際などに提示すれば、接種完了者は原則的に自主隔離や感染検査などを求められず、各国間の移動が容易になる。

 日本のワクチンパスポートは最終的に30カ国超で使用できる見通しという。こうした国を広げていくことも、これからの課題となる。

 ワクチンパスポートを巡っては、経団連が用途を出入国時だけでなく国内にも広げ、イベントの入場制限や医療・介護施設での面会制限の緩和などにつなげるよう政府に提言している。国内でもイベントやツアーへの活用で移動の自粛を緩和できれば、萎縮する地域経済の活性化が期待できるとの考えである。

 一方、政府は国内の運用は接種券に記載されている「接種済証」で対応が可能だとの認識を示し、ワクチンパスポートは海外渡航者向けに限り発行すると説明している。国内でも運用できるようにした場合、希望者が殺到して、自治体の窓口がパンクする恐れがあるという。

 国内での行動規制緩和に用いる国もあるとはいえ、接種を強要する「同調圧力」を招きかねないとの声も上がっている。慎重な検討が必要だ。

 気掛かりなのは、国内の一部宿泊・観光施設や飲食店で、2回接種した接種済証の原本などを提示すると、飲食代などを割り引くキャンペーンを始めていることである。政府は接種していない人に対する不当な差別につながらないよう配慮する必要があるとして、国内での運用の在り方について検討するという。

 接種はあくまで自由意思に基づくものだ。アレルギーがある、安全性への懸念が払拭(ふっしょく)できないなど接種できない理由は人それぞれだが、そうした人が不利益を受けたり、後ろめたさを感じたりすることは避けねばならない。

 そもそも日本はワクチン接種で出遅れ、希望しても受けられない人がまだまだ多い。しかも、ワクチンの供給減少を受け、予約枠縮小など接種計画を見直す自治体が相次いでおり、安定的な調達こそが急がれる。証明より迅速な接種が喫緊の課題であることは言うまでもない。

(2021年07月25日 08時00分 更新)

あなたにおすすめ

ページトップへ