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「リング」貞子のモデルは岡山人? 明治期の超能力実験に参加

岐阜県高山市にある「福来博士記念館」。超能力実験に関する資料が展示されている
岐阜県高山市にある「福来博士記念館」。超能力実験に関する資料が展示されている
青山融さん
青山融さん
 長い黒髪を前に垂らして顔を見せず、華奢(きゃしゃ)な身体を白いワンピースに包んだ女性。そんな姿を目にしただけで「わっ貞子じゃ!」と思わず叫んでしまいます。ビジュアル的にインパクトのある「貞子」は、今やすっかり有名な存在になりました。「貞子」の初登場は今からちょうど30年前。鈴木光司のホラー小説『リング』(1991年)の登場人物です。後に映像化されて話題を呼んだ映画『リング』(1998年)では、テレビ画面からズルズルはい出てくるシーンが話題になったものでした。

 この『リング』の登場人物にはモデルとなった人物がいました。「山村貞子」や「伊熊平八郎博士」にはモデルが実在したのです。今から100年あまり前の明治時代後半、日本中に「超能力ブーム」を巻き起こした人々です。その名は長南年恵、御船千鶴子、長尾郁子、高橋貞子の4人。そして実験によって彼女たちの超能力を、また超能力というものの存在を証明しようとした東京帝国大学文学部助教授・福来友吉博士でした。

 透視・念写・予知…。超心理学関係の本には、必ずと言っていいほど、彼らの超能力実験の様子が取り上げられています。あまり信じてはいないけれども興味だけは人一倍ある私としては、関連書籍をずいぶん読んできました。明治という時代が生んだ4人の超能力女性の生い立ち、超能力実験の手順、実験の成功と失敗、イカサマか真実か、持ち上げては突き放すマスコミ体質などについて読めば読むほど、興味関心は深まるばかりでした。

 空中から一瞬にして集める「霊水」で病人を治した長南年恵。封筒や鉛管に封じ込めた紙の文字を「透視」した御船千鶴子。密封した写真乾板に文字や図形を「念写」した長尾郁子。そして「透視」や「念写」に驚異的な力を発揮した高橋貞子。彼女たちこそが『リング』に登場する「山村貞子」のモデルであり、「貞子」という名は「高橋貞子」に由来していると思われます。

 彼女たちは一時はマスコミに大いにもてはやされるものの、最後は哀しい結末を迎えます。逮捕され裁判にかけられた長南年恵。26歳で自殺した御船千鶴子。その8日後に急病死した長尾郁子。最後の実験の失敗後、行方不明になってしまった高橋貞子。福来友吉博士自身も、この実験の後、東京帝国大学助教授の座を追われてしまいます。過熱したブームに運命をもてあそばれた彼女たちが、まことに哀れでなりません。

 彼女たち4人はみな地方在住で、長南年恵は山形県鶴岡市、御船千鶴子は熊本県宇城市、長尾郁子は香川県丸亀市の人でした。そして「貞子」と同名の高橋貞子は、なんと岡山人だったのです。彼女は万代源次郎・多喜子夫妻の末の子として、1868年に現在の和気町益原で生まれました。子どもの頃のエピソードもいろいろ伝わっており、かなりエキセントリックな性格だったようです。その万代貞子が結婚して高橋貞子になったわけですが、名前がそのまま『リング』に使われたのですから「貞子は実は岡山県人じゃったんじゃ!」と自慢してもいいのではないでしょうか。

 超能力ブームは明治末期以降も、時をへだてては何度も何度もおとずれました。宗教と結びついておかしなことになり、被害者が出たりするのは論外ですが、超能力というものにロマンを感じる人が多いからなのでしょう。「あると楽しいだろうけど、あるかないか今のところ分からない」といったスタンスで、これからも付き合ってゆこうかな…と改めて思う私です。

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青山 融(あおやま・とおる) 岡山弁協会会長。映画「バッテリー」「でーれーガールズ」などで方言監修、指導を担当。岡山が生んだ名探偵・金田一耕助、古墳、路上観察など興味の的は多岐にわたる。雑誌「月刊タウン情報おかやま」「オセラ」の編集長など歴任。著書に「岡山弁会話入門講座」「岡山弁JAGA!」「岡山弁JARO?」など。東京大法学部卒。1949年、津山市生まれ。

(2021年04月26日 11時58分 更新)

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