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養育費不払い問題の解決に向けて 子どもの貧困解消のために

養育費の問題を多く取り扱っている岡山地方裁判所津山支部
養育費の問題を多く取り扱っている岡山地方裁判所津山支部
大山知康弁護士
大山知康弁護士
 弁護士として離婚分野で難しい問題の1つに養育費があります。少し難しい言葉ですが、離婚後に監護していない親が監護しているもう一方の親に支払うものと定義されます。

 通常、弁護士が関わるケースでは双方の当事者が合意すること自体が難しい問題が多いのですが、養育費の場合には、合意をした後に問題となることが多く、弁護士には悩ましい分野です。具体的には、養育費の支払いが合意後に止まることが多いという問題があります。

 養育費は原則として当事者(両親)の合意によって決まるのですが、当事者間で合意ができない場合には調停や審判などで、両親の収入を基準に(裁判官の司法研究で定められた)養育費算定表に基づいて収入に応じた一定の金額が養育費と決められます。以前はこの養育費算定表で定められた金額が低かったのですが、約16年ぶりの2019(令和元)年12月に改訂され、1カ月当たり1万円から2万円ほど増額されたため、養育費の金額が低い問題は(両親の収入が低い場合にはまだ養育に十分とはいえないケースもありますが)ある程度解決されました。

 しかし養育費に残る問題のもう1つである養育費不払い問題はまだ解決されていません。養育費の支払いを継続して受けている母子世帯は2016年の厚生労働省の調べでは約24.3%であり、4分の3以上の母子世帯は養育費の支払いを受けていないことになります。養育費の不払いは、子どもの貧困率が高い日本の1つの要因として解決すべき問題として近年注目されています。

 裁判所の調停調書等や、公証役場で執行認諾文言付公正証書によって養育費を決めた場合には、養育費の支払い義務者(以下単に「義務者」といいます)が養育費を支払わなければ義務者の財産に対し強制執行することができます。しかし、義務者が転職したり、養育費を受けとる権利者(以下単に「権利者」といいます)が把握している以外の預貯金口座に預貯金を移したりすると、義務者が養育費を支払わなかった場合でも給与や預貯金を差し押さえできなくなります。こういった弁護士が付いていても未払いの養育費を預貯金から回収するのが難しいケースが多くありました。

 この問題を解決するために民事執行法が2020(令和2)年4月に改正施行されました。上記の調停調書等がある場合には権利者が裁判所に申し立てをして、市町村や年金事務所に対し当該機関が把握している勤務先の情報開示を求めたり、金融機関に対し義務者が持つ預貯金口座の支店名やその残高の情報開示を求めたりすることができるようになりました。この結果、強制執行により養育費が回収できる可能性が上がりました。

 なお、裁判所の調停手続き等で養育費を定めた場合には、権利者が裁判所に申し出て義務者に履行の勧告をしてもらうことは、以前から一定の効果をあげていました。上記のような民事執行法の改正によって強制執行の実効性が高まったことにより、この裁判所による履行の勧告の実効性もより高まったと考えます。

 これまで述べてきたように、子どもの貧困が社会問題化していることや、子どもの権利条約第27条第4項で「締約国は、父母又は児童について金銭上の責任を有する他の者から、児童の扶養料を自国内で及び外国から、回収することを確保するためのすべての適当な措置をとる」と定められていることにより、国や自治体が養育費の支払いが継続するよう支援する制度をつくることが求められています。

 これを受けて岡山県内でも津山市が未払いの養育費について、強制執行をする手続きを弁護士に代理で行ってもらう費用の一部を補助する制度を作りました。また赤磐市では市が保証会社と協定を締結して一定期間養育費の立て替え払いを受けることができるようになるなど徐々に取り組まれています。まだ対策をとっていない自治体には、ぜひ養育費不払い問題に対し何らかの対策をとってもらいたいです。

 養育費不払い問題は、義務者が非正規雇用などで収入が少なかったり安定しなかったりして財産がそもそもないことや、義務者が多重債務を抱えていることなども原因の一つ。こうなると上記のような未払い養育費の回収の点だけでは解決できない問題です。

 自治体は、養育費の回収の点のみのサポートではなく、義務者が充分な収入を得ることができる職に就労できるよう支援したり、多重債務の解消をサポートしたりするなど義務者を支えることも重要でしょう。行政と司法が協力して社会問題のしわ寄せにより、子どもの貧困が生じている現在の状況を根本から解決していくべきと考えます。

     ◇

 大山知康(おおやま・ともやす)2006年から弁護士活動を始め、岡山弁護士会副会長など歴任し、17年4月から同会環境保全・災害対策委員長、18年4月から中国地方弁護士会連合会災害復興に関する委員会委員長。新見市で唯一の弁護士としても活動。市民の寄付を基にNPOなどの活動を支援する公益財団法人「みんなでつくる財団おかやま」代表理事も務める。19年1月からは防災士にも登録。趣味はサッカーで、岡山湯郷ベルやファジアーノ岡山のサポーター。青山学院大国際政治経済学部卒。玉野市出身。1977年生まれ。

(2021年01月13日 11時30分 更新)

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