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建設石綿訴訟 国は速やかに救済を図れ

 建設現場でアスベスト(石綿)を吸い、中皮腫などの健康被害を受けた元労働者らが国などに損害賠償を求めた集団訴訟で、最高裁は先月、国の上告を退けた。規制を怠った国の責任を認め、国に賠償を命じた二審東京高裁判決が確定した。

 全国9地裁に千人以上が起こした「建設アスベスト訴訟」で国への賠償命令が確定したのは初めてだ。今回の原告である元労働者らが提訴してから12年半で、新たに100人以上が亡くなっている。国は最高裁の決定を重く受け止め、被害者を救済する制度の拡充に早急に取り組まなければならない。

 石綿は安価で断熱、耐火性に優れ、建築材料に広く使われた。だが、粉じんを吸い込むと中皮腫や肺がんの原因になると判明し、規制が進んだ。潜伏期間は数十年に及ぶ場合もあり、発症すれば多くは数年で死亡するため「静かな時限爆弾」と呼ばれる。

 石綿による健康被害者の救済策としては、労災認定のほか、2006年施行の石綿健康被害救済法に基づく給付金などがある。だが、救済範囲の不十分さや給付水準の低さが指摘されている。

 今回確定した18年3月の二審東京高裁判決は、医学的知見の集積を踏まえて「国は遅くとも1975年10月には、防じんマスク着用を雇用主に義務付け、現場に警告表示をするべきだった」と判断。規制権限の行使を怠った国の賠償責任を認めた。

 さらに、企業に雇われた労働者だけでなく「一人親方」と呼ばれる個人事業主も救済対象に加えていることにも注目したい。一人親方について国側は、労働安全衛生法で保護される「労働者」には当たらないと主張した。だが、判決は「建設現場で重要な地位を占め、保護の対象になる」と判断した。

 石綿関連疾患で労災認定を受けた人は、建設現場や石綿工場などの労働者を合わせ2019年度までに1万7千人を超え、患者は毎年500人規模で増え続けている。建設業の割合は増加傾向にあり、19年度は6割近くを占める。最高裁が今回、国の賠償責任が及ぶ時期や対象者について幅広く救済する方向を示した意義は大きい。

 石綿工場労働者の救済を巡っては、最高裁は14年の泉南アスベスト訴訟で、国の賠償責任を初めて認めた。これを受け厚生労働省は、工場労働者側が提訴し一定の条件を満たせば、和解に応じて賠償金を払う方針を示した。だが、裁判の負担が大きいことなどから提訴は進まず、救済は滞っているのが実情だ。

 建設石綿訴訟の原告側は、健康被害者が裁判を起こさなくても迅速に救済が受けられる基金制度の創設を提案している。原告らの「命があるうちに解決を」との訴えに国は真摯(しんし)に向き合うべきだ。被害実態に応じて確実に救済するための取り組みが急がれる。

(2021年01月13日 08時00分 更新)

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