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この地に生きる3(17)藤本愛子さん(39)=美作市柿ケ原 人と縁深め根を張る

藤本愛子さん
藤本愛子さん
毎週日曜日に営業している「えんむすび」
毎週日曜日に営業している「えんむすび」
 美作市作東地域の小さな集落。山里にある店先は近くのお年寄りや買いに来た客らの憩いの場となっていた。

 県産米粉を100%使用したシフォンケーキ専門店「えんむすび」。昨年7月から毎週日曜にオープンしている。何気ない会話を楽しみながら接客する藤本さんの笑顔がはじけている。

 移住して2年が過ぎた。「孫や娘のようにかわいがってもらっています」

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 神戸市生まれ。大学で福祉を学び、大阪市の児童養護施設に勤め、24歳の時、憧れていた東京へ。カフェで約10年働いたが、30代半ばに差し掛かり、人生設計を考えた。「都会暮らしにも疲れた。自然豊かな田舎で何かに挑戦したい」。漠然と思うようになった。

 パン作りを習い、移住先をあちこち探した。岡山にゆかりはなかったが、県北の風景に癒やされた。「なんか、いいな」と引かれるようになった。

 東京で知り合った山田高寛さん(39)=神奈川県出身、花田晃子さん(36)=東京都出身=と3人で2016年、まずは岡山市に移住した。藤本さんは花田さんとともに岡山市の米粉パン専門店で働いた。

 念願の3人での田舎暮らしに向け、次のステップに踏み出した。

 柿ケ原の民家を手に入れ、18年10月に引っ越した。集落の集まりにあいさつに出向くと、温かく迎えられた。店舗となる民家も近所の持ち主が快く貸してくれた。

 「どんな店を開いて暮らしていこうか。受け入れてくださった地域への恩返しもしたい」。おむすび専門店、総菜店も考えたが、米粉パン専門店での経験を踏まえ、米粉のシフォンケーキに特化することにした。

 人の縁がつながり、導かれるようにたどり着いたことから、店名をつけたのは言うまでもない。

 山田さんは店のウェブサイトを管理、花田さんは店の手伝いと、3人で協力。市内外のマルシェやイベントに参加したり、商品を置いてくれる店舗を開拓したりして販路は徐々に広がった。

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 新型コロナウイルスの感染拡大で、マルシェなどは中止となり、店舗は3カ月間の休業に追い込まれた。

 再開後、しっとり、ふわふわとした米粉ならではの味わいのシフォンケーキをより多くの人に味わってほしいという思いは強くなった。商品のレパートリーも、プレーン、コーヒーチョコ、ラムレーズン、キャラメルクルミなど10種類ほどに増えた。

 家庭菜園も始めた。もちろん住民に教わりながら。地区の田植えや稲刈りの手伝いもした。人々との“えんむすび”のためだ。

 「山奥だけど、あそこに行ってみようと『目的地』となるカフェになるのが目標」

 これからも出会う人々との縁を深めながら、この地に根を張っていく。

(2020年11月27日 08時04分 更新)

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