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ある街の理髪店。客は少なく、8…

 ある街の理髪店。客は少なく、83歳の店主は外の植え込みのそばに置いた椅子にしょっちゅう座って、景色をながめている。2人暮らしの妻は最近物忘れが激しく、自分が植えた花の名前を何度も尋ねるようになった▼岡山市在住の小暮夕紀子さんの小説「タイガー理髪店心中」である。やがて認知症が進み、穏やかな暮らしはほころぶ。夫は独り嘆く。「女房がちょっとおかしくなると、不憫(ふびん)に思ったり心配するより先にどこかでさげすんでいる自分がいる」▼介護に疲れ、自らを責める人は多い。その果てか。家族らによる高齢者虐待は自治体が把握しただけで年1万7千件を超え、心中や殺人に至る例もある▼介護保険制度は介護者を支える視点が足りないと専門家は言う。サービス事業者に支払う介護報酬の来年度改定に向けた議論が厚生労働省で行われている▼「老老介護」だけでなく、子どもが介護を担う「ヤングケアラー」などの問題も顕在化した。例えば、ヘルパーによる生活援助を、同居家族がいても利用しやすくするよう求める声もある▼冒頭の小説の小暮さんは父を介護したことがあるそうだ。本紙の記事で語っていた。「先の見えない介護を常に担うとしたら、相手を疎んじたり早く楽になりたいと願ったりすることもあるのではないか」。思いとどまれるよう支えがいる。

(2020年11月26日 08時00分 更新)

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