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ハンセン病療養所自治に焦点 県の元調査専門委員松岡さん出版

長島愛生園と邑久光明園の入所者による自治の歩みをまとめた「ハンセン病療養所と自治の歴史」
長島愛生園と邑久光明園の入所者による自治の歩みをまとめた「ハンセン病療養所と自治の歴史」
松岡弘之講師
松岡弘之講師
 元岡山県ハンセン病問題関連史料調査専門員の松岡弘之・岡山大文学部講師(日本近現代史)が、瀬戸内市・長島の国立療養所長島愛生園と邑久光明園の入所者による「自治」の歩みにスポットを当てた「ハンセン病療養所と自治の歴史」を刊行した。国の政策で療養所に収容されながらも人間らしい生活を求めて苦闘した人々の記録を掘り起こし、後の人権回復への土台となったことを伝えている。

 松岡講師は福山市出身で岡山大文学部在学中から両園を訪問。大阪市立大の大学院生の時に県のハンセン病問題関連史料調査専門員となり、2007年と09年に刊行された資料集「長島は語る 前・後編」の編集に携わった。兵庫県尼崎市立地域研究史料館職員を経て今年4月から岡山大の講師を務めている。

 本書は療養所に残る会議録や手紙、行政文書などの膨大な資料を調べ、416ページにまとめた労作。光明園の前身の公立療養所外島保養院(大阪市)で、大正中期に入所者の代表組織が療養所運営に関して一定の権限を得たのが〈全国の療養所における初の自治だった〉とし、各地の療養所に影響を及ぼしたことを紹介している。

 愛生園では戦前の隔離強化で収容が過剰となる中、入所者が処遇改善と自治獲得を求めて園長の退任を迫った1936年の「長島事件」などを解説。両園の自治は戦時体制でいったん途切れるものの、その動きは戦後に引き継がれ、園内の環境改善や隔離からの解放を求める運動につながったと分析している。

 松岡講師は「不条理な環境を変えようと必死に生きた人々の姿を伝えることで入所者を身近な存在として捉え、この問題を考えてもらうきっかけになれば」と話している。

 本書で松岡講師は、ハンセン病問題に取り組む「ハンセン病市民学会」が優れた研究などに贈る「神美知宏・谺雄二記念人権賞」を本年度受賞した。

 四六判で、みすず書房から出版。5490円(税別)。

(2020年09月22日 12時03分 更新)

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