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『京都に女王と呼ばれた作家がいた』花房観音著 2時間ドラマ以上にドラマチック

 
 
 京都を舞台にした推理小説で一時代を築いた「ミステリーの女王」山村美紗の評伝。いや、彼女の人生そのものがミステリーであり、2時間ドラマ以上にドラマチックだ。

 作品の累計発行部数3千万部以上、100本以上がドラマ化され、1980~90年代は長者番付上位の常連だった。父は京大名誉教授。美貌と知性に恵まれ、華やかな交友関係と贅を尽くした邸宅やドレスに彩られた見かけとは裏腹に、実生活はすさまじかった。

 戦後、京城(現ソウル)から引き揚げ後は極貧を味わい、中学教師をしながら江戸川乱歩賞の落選を繰り返した末、40歳で作家デビュー。無冠デビューは生涯のコンプレックスになる。

 売れるためにはなりふり構わず、編集者たちをもてなし、脅し、叱りつけた。一方で喘息と虫垂炎による腹痛にあえぎ苦しみながら、暗証番号付きの鍵をかけた自室で1日20時間、ボロボロになって書き続けた。

 最大のミステリーはその男性関係だ。京都で隣同士の家に住んだ作家、西村京太郎との関係は出版界では周知の事実にして最大のタブー。ところが向かいのマンションには2人の関係を黙認する美紗の夫が住んでいた。デビュー前から美紗を献身的に支えた数学教師の夫は、編集者たちも知らない陰の存在だった。

 美紗が1996年に他界した後、西村は彼女をモデルにした小説を発表するが、2人の男女関係については肯定と否定を繰り返した。一方の夫は、毎夜、夢に現れては「私の絵を描いて」と訴える亡き妻の求めに応じて絵画を学び、美紗の肖像画を描き続ける……こうなると、物語はホラーの様相さえ帯びてくる。

 京都在住の作家である著者も美紗に取り憑かれた人間だ。業界タブーに阻まれて取材と出版は困難を極めたが、やっとのことで刊行にこぎつけた。

 作家の荒ぶる魂は死してなお生者をとらえて離さない。一方、書店に山村美紗の作品は今やほとんど置かれていない。幻の女王――流行作家の残酷な現実に粛然とする。
(西日本出版社 1500円+税)=片岡義博

(2020年09月04日 07時09分 更新)

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