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「将来のこと、考えておいた方が…

 「将来のこと、考えておいた方がいい」。自宅を訪れた医師にそう言われて、戸惑った表情を浮かべたことを覚えている。かつて取材した筋萎縮性側索硬化症(ALS)の男性だ▼筋肉を動かす神経が侵される難病で、男性は40代でまだ何とか歩けたが、やがて呼吸するのも難しくなる。「将来」とは、そのときに人工呼吸器をつけるかどうか。つければ命が延びる代わりに介護負担は増す。妻一人では大変だろうと、岡山県北の古里に戻り親族も頼れるとはいえ、男性の苦悩は理解できた▼「安楽死」を希望したALS患者の嘱託殺人事件を受け、その是非についての議論が注目されている。懸念するのは、患者が「生きたい」と言いにくくなることである▼日本で安楽死は認められていない。だが、呼吸器の装着などを控える「尊厳死」は法制化を目指す動きがある▼安藤泰至・鳥取大准教授の著書「安楽死・尊厳死を語る前に知っておきたいこと」によると、この二つは世界共通とか、学問的に公認された定義がない。シンポジウムなどの議論もかみ合わず、混乱しがちだそうだ▼一方で、国会での議論は低調だ。自民党の終末期医療についての検討チームが先月、久しぶりに開いた会合に出席した議員は数人だけだったという。これでは患者の苦悩と向き合う医療の「将来」は到底語れまい。

(2020年08月04日 08時00分 更新)

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