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EU復興基金 次代見据えた連帯に期待

 新型コロナウイルス感染症の大流行という未曽有の危機を乗り越えるには連帯が不可欠である、との強い意思表示と言えよう。欧州連合(EU)は、打撃を被った欧州の経済再建に向け「次世代のEU」と銘打った大規模な復興基金の創設を決めた。

 基金総額は返済不要の補助金と融資を組み合わせた7500億ユーロ(約92兆円)。感染によって多くの死者を出した上、景気低迷が深刻なイタリアやスペインといった南欧諸国を優先的に支援する。

 最大の特徴はEU史上初めて共同債を発行して資金を全額、市場から調達することである。コロナ禍は加盟国間の財政格差を改めて突き付け、信条である「往来の自由」を排する事態も招いた。それだけに、一部の国を手厚く救済するため事実上全加盟国が債務を共有する意義は大きく、政治・経済両面で結束の再強化につなげてほしい。

 EUはこれまでも既存の融資制度を使い、医療や雇用の危機対応を目的とした総額5400億ユーロの経済対策を準備している。一方、基金はアフターコロナの経済復興に照準を合わせた。単なる景気刺激ではなく、気候変動対策とデジタル分野に重点投資することで、エネルギー多消費型から次世代型の持続可能な経済への脱皮を目指す。

 基金は来年から配分され、どんな事業に活用するかは各加盟国が策定する。償還期間は最大30年で、EUが使い捨てプラスチック課税や大手IT企業へのデジタル課税といった独自政策を新たに導入して返済に充てるという。

 基金創設を巡っては先月の首脳会議で財政規律を重んじるオランダなど「倹約派」の国々が、渡し切り資金を放漫財政といわれる南欧に流すことに強く抵抗して一時は合意が危ぶまれた。議長国ドイツを中心に、当初案から補助金分を大幅に削ったり、受益国の支出計画に問題があると判断されればそれを止められる仕組みを設けたりして難交渉をまとめた経緯がある。

 各国とも事情はあろうが、今回、合意を逃せばEUそのものが地盤沈下しかねないとの危機感があったのは間違いない。約10年前の欧州債務危機の際、ギリシャなどへの支援にもたつく間に中ロが手を差し伸べて影響力を拡大し、反EU感情をあおる極右も伸長したとの反省もある。

 今年1月の英国の離脱に加え、EU懐疑主義が加速している国もある。コロナ禍で苦境の国々の救済に失敗すれば、その風潮がEU全体へ波及する恐れも否定できまい。

 域内では観光客の受け入れを再開するなど経済立て直しが本格化しているが、感染第2波の懸念もあり順調に進むかどうかは不透明だ。とはいえ、米中の経済対立や保護主義が台頭する中で連携の重要さは増している。日本にとっても自由貿易体制のパートナーであるEUが協調し、安定を取り戻すことが重要だ。

(2020年08月01日 08時00分 更新)

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