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ALS嘱託殺人 「生きる権利」を妨げるな

 インターネットで依頼を受け多額の金を受け取ったとされるなど、「安楽死」を巡る過去の問題と比べても異質さが目立つ。筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者に薬剤を投与し殺害したとして医師2人が嘱託殺人容疑で京都府警に逮捕された事件である。

 ALSは運動神経が侵される進行性の難病で、やがて寝たきりになり食事や呼吸も自力でできなくなる。一方で感覚や思考は残り、患者は動かない体に閉じ込められたように感じる困難な病気だ。その苦悩は察するに余りある。

 だが、日本では医師らが薬剤を投与して積極的に死期を早めることは認められていない。患者の意思とはいえ「安楽死させてほしい」との依頼をそのまま実現したのであれば到底容認できない。まずは捜査で真相を解明してもらいたい。

 事件を受け安楽死の議論が注目を集め、ネット上では賛同も多く見られるという。ベルギーやオランダなどで合法化されている影響もあろう。

 国内で安楽死が問題になった例では、1991年に神奈川県の東海大病院で医師ががん患者に薬物を注射し死なせた事件が知られる。殺人罪で起訴された医師は執行猶予付きの有罪判決が確定した。

 この際、横浜地裁の判決は医師による安楽死が許容される要件を示した。今回の事件で死亡した患者は、要件の一つである死期が迫っていたわけではないとされ、安楽死とみることにも疑問が残る。

 安楽死と区別して考えられることが多いのが「尊厳死」である。人工呼吸器といった「延命治療」を控えることなどを一般的には指す。与野党の一部で法制化を目指す動きはあるが、議論は進んでいない。難病の患者や障害者団体に「命の切り捨てにつながる」との懸念が強いためだ。

 今回の事件を受けて、ALSの当事者の舩後靖彦参院議員(れいわ新選組)がコメントを公表し、安楽死の合法化を求める反応が難病患者らに「生きたい」と言いにくくさせ、生きづらくさせる社会的圧力が形成されることを危惧した。「『死ぬ権利』よりも『生きる権利』を守る社会にしていくことが何よりも大切だ」としている。

 安楽死の肯定は「生きていても仕方がない命がある」との考えにつながり、生きる権利を妨げる恐れが拭えない。きのうで発生から4年となった相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」の事件で、19人を殺害した植松聖(さとし)死刑囚の「障害者は殺してもいい」との極端な主張も、その延長線上にあろう。

 亡くなった女性はブログで病気を悲観する一方、治療法の研究開発のニュースに希望を見いだすような記述もあったという。精神面のケアなどで気持ちを和らげることはできなかったのか。当事者が希望を失わない社会に向け、幅広い関係者による議論につなげることが求められる。

(2020年07月27日 08時00分 更新)

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