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川崎市ヘイト条例 「反差別」の機運高めたい

 特定の人種や民族への憎悪をあおるヘイトスピーチをなくすため、全国で初めて刑事罰を盛り込んだ川崎市の差別禁止条例が今月、全面施行された。2016年施行のヘイトスピーチ解消法から一歩踏み込んだ独自の対策が、行き過ぎた言動への歯止めとなることを期待したい。

 ヘイトスピーチは特定の国籍や宗教、性的指向などの少数者に対する差別を侮辱的な言葉で表現するものだ。在日コリアンが多く住む地域で「殺せ」「犯罪者」などと連呼する街頭活動が頻発し、社会問題化した。中でも川崎市では激しいデモと反対運動が繰り返されてきた経緯があり、ヘイト解消法制定のきっかけにもなった。

 解消法は、禁止規定や罰則のないいわゆる「理念法」で、地域の実情に応じた施策を講じるよう国や各自治体に求めている。施行後はデモ件数が減るなど一定の抑止力となったのは確かだが、一方で差別を助長する言動は収まらず、インターネット上での扇動や排外的な政治活動へと広がりを見せている。

 こうした実状を受けて、長年ヘイトの現場となってきた川崎市が対策に乗り出した意義は大きい。

 条例は、公共の場でビラや拡声器を使った差別的言動を禁じた。違反者には、有識者でつくる審査会の意見を聴いた上で勧告、命令を順に出し、それでも従わなければ個人・団体名を公表すると同時に刑事告発する。検察と裁判所が相当と判断した場合に、50万円以下の罰金が科される。違反認定の手続きに慎重を期したと言えよう。

 また禁止する文言として、「○○人を駆除しろ」といった具体例を明示した。歴史認識の表明や政治的な主張については基本的に対象外とし、過度な制約が生じないよう配慮している。

 ヘイト規制策の議論では、正当な言論活動まで萎縮させることがないよう、憲法が保障する「表現の自由」との兼ね合いが常に問われる。条例を検討する他の自治体も増えているが、二の足を踏んでいるのが現状だ。

 とはいえ偏見をあおる行為に対して社会は厳しい目を向け始めている。ヘイト規制を巡る憲法判断として注目されたものに、1月の大阪地裁判決がある。差別的言動をした者の氏名を公表する大阪市の抑止条例が表現の自由を侵害するとした住民の請求を「表現の自由は無制限に保障されているわけではない」と棄却、合憲とした。

 川崎市の条例では今回、ネット上の言動は匿名性が高く特定が難しいとして刑事罰の対象から外した。今後はこうした課題を国や自治体間で共有し、対処することも重要だ。法や条例によって抑止を進めると同時に、市民一人一人が「反差別」の意識を持ち、自分たち自身の問題として向き合う機運を高めていくことも欠かせない。

(2020年07月08日 08時00分 更新)

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