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食べて知る、酒米の価値 誇るべき「雄町」 アピールの好機

酒米「雄町」の白米。米の中心部に「心白(しんぱく)」と呼ばれる白く濁った部分が見られるのが特徴
酒米「雄町」の白米。米の中心部に「心白(しんぱく)」と呼ばれる白く濁った部分が見られるのが特徴
シーフードパエリアに挑戦。「雄町」は歯ごたえのある“アルデンテ”に仕上がった
シーフードパエリアに挑戦。「雄町」は歯ごたえのある“アルデンテ”に仕上がった
 おにぎり、ピラフ、パエリア……。昨今の自粛期間も相まって、最近はお米を使ったさまざまな料理を自宅で満喫している。といっても、朝日やアケボノ、コシヒカリなどといった食用米ではない。全国の生産量の9割以上を岡山県が占める酒造用米の「雄町」を使った、酒飲みな私にとってそれは贅沢な楽しみ方だ。「雄町」は新型コロナウイルス感染拡大の影響で地酒の販売が厳しさを増す中、酒造りに使われないままになっているものを岡山県内の酒蔵が食用として販売。生産者を応援したいという彼らの思いに賛同して購入した。

 「雄町」や「山田錦」など清酒の原料に用いられる米は、食用米と比べて粒が大きい一方、洗米や浸漬時の吸水スピードが速い。そのため、食用米と同じ浸漬時間や水量で炊くとべたついた炊き上がりになるなど扱いが難しい。しかも、粘り気が少なくやや淡白な食味の酒米は「食べてもおいしくない」というのが通説だ。しかし、いざ炊いてみると大粒ならではの歯ごたえやあっさりした味わいが、むしろおいしく感じられた。「雄町」はかつて食用として栽培されていたこともあったと聞くし、お寿司のシャリに使われた例もある。最近では「朝日」1に対して「雄町」を2割ほどブレンドしたごはんの炊き上がりがとても好みで、頻繁にリピートしている。
 
 一方、生米をバターで炒め、スープや具材の出汁のうま味をしっかりと吸わせて炊くピラフやパエリアは、酒米ととても相性がいい。普通に炊飯するよりも水加減がしやすく、調理の過程で好みの食感に仕上げられるのも、ずぼらな私に向いている。調理方法もいろいろあれば、味わいもさまざま。なにより、感じるままにあれこれと試す過程が、いい気分転換にもなった。

 酒造用米は本来、酒造りに使われるべきもの。こうした試みは今年限りのものとして、一日も早い日本酒の消費と酒米生産量の回復を願っている。ただ、視点を変えれば、こういう時こそ「雄町」という誇るべき酒米が地元にあることをアピールする好機と捉えることもできる。岡山県内の酒蔵による今回の試みが、将来の農業と酒造業界を支えるために欠かせないアクションだったと後に言えるよう、今は飲むだけでなく食べることでも応援したいと思っている。

 岡山県内でこのたび初めて「雄町」を食用として販売した辻本店(真庭市勝山)は、調理法を自社サイト上に公開したりオンラインセミナーを開いたりして「雄町」の魅力を発信。室町酒造(赤磐市西中)は、岡山県内に展開するスーパーマーケットとタイアップし、普段日本酒との接点がさほど多くない層にもアプローチした。また、利守酒造(同市西軽部)はクラウドファンディング(CF)を活用して「雄町」の魅力を地域の風土とともに伝え、「雄町」を使ってアレンジした料理をCF内外で情報共有するなどファン拡大につなげている。

 CFに挑戦するにあたり利守酒造の利守弘充専務に話を聞いた際、「貴重な酒米。余ったから売るという姿勢は取りたくないし『雄町』の価値を絶対に下げてはいけない」と語った言葉からは、「雄町」に対する深い愛着と酒米「雄町」へのひときわ強い思い入れが伝わってきた。私たちは、飲んだり食べたりすることで彼らの熱意に応えることができる。「雄町」を手にする機会があれば、ぜひ味わってみてほしい。

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 市田真紀(いちだ・まき) 広島市出身の日本酒ライター。最近の主な活動は、日本酒業界誌『酒蔵萬流』の取材執筆や山陽新聞カルチャープラザ「知る、嗜む 日本酒の魅力」講師など。このほか講演やイベントの企画・運営を通して、日本酒や酒米「雄町」の認知拡大を図っている。夏は田んぼ、冬季は蔵が取材フィールド。たまに酒造り(体験・手伝い)。SSI認定きき酒師、同日本酒学講師。J.S.A SAKE DIPLOMA取得。1970年生まれ。

(2020年07月08日 10時00分 更新)

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