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ハンドボールで子どもたちを元気に 岡山に根付いた沖縄出身夫婦の取り組み

沖縄県出身の中村開・百代さん夫婦。現役時代はともにハンドボール選手として活躍
沖縄県出身の中村開・百代さん夫婦。現役時代はともにハンドボール選手として活躍
中村百代さんは、インドではナショナルチームを指導
中村百代さんは、インドではナショナルチームを指導
コーチ陣と選手。チーム名は「OKAYAMA CASTLES」だ
コーチ陣と選手。チーム名は「OKAYAMA CASTLES」だ
卒業記念のメッセージボードとマグカップ
卒業記念のメッセージボードとマグカップ
 今年は、本来ならばオリンピック・イヤーであったが、新型コロナの影響により世界の状況は大きく変化した。オリンピックを目指していた選手達は本当に大変であろうし、楽しみにしていた国民も残念な思いをしている。子供たちの体力低下も気になる。経済の停滞は、明日をどう生きるかといった問題にまで発展している。1日も早い回復を祈るばかりだ。

 さて、オリンピックを目指す選手やプロ選手ではなくとも、身近にはスポーツにかかわる子供たちや元気な大人達がいる。彼らの活躍からヒントを得ようと、街角のアスリートたちにインタビューを試みたことがある。ここでのアスリートの定義は、「何かに頑張っている人」である。そして彼らに共通するキーワードは「好きなこと」「誰かのために」であった。

 コロナ禍の中で、自分たちも大変な状況にあるにもかかわらず、子供たちの笑顔が見たいと頑張っている若夫婦がいる。昨年、岡山県に来られた沖縄県出身の中村開・百代さんご夫妻である。

 ご主人は、中学生の頃からハンドボールを始め、大学卒業後も一般のチームでハンドボールを続け、母校である沖縄県立那覇西高校で講師を務めながらハンドボール部を指導し、全国大会に出場させている。その後は、南風原(はえばる)町立南風原中学校でもハンドボールコーチを務め、日本ハンドボール協会公認コーチの資格を持っている。
 
 奥様は、小学校3年生からハンドボールを始め、大学卒業まで14年間ハンドボールを続け、小・中・高・大学ともに全国大会出場経験を持つ優秀な選手であった。大学卒業後はインドにあるニューデリー日本人学校で小学校教諭をしながら、インドナショナルチームの指導も経験している。2018年の3月に帰国し、ご結婚されている。

 二人ともハンドボールと子供が大好きで、自宅近くで行われていた少年少女ハンドボール教室の存在を知り、ボランティア指導者として参加している。

 このハンドボール教室は、2004年10月から、岡山県立操山高等学校を退職された船越雅彦先生が、ハンドボールの基本的な動きやゲームなどを通して、ハンドボールへの興味や関心を持ってもらい、母校岡山大学ハンドボール部員が、ハンドボールを通して地域の子どもたちとふれあえることを目的として、開設したものである。当初は小学校3年生以上を対象に、2カ月に1回のペースで年に6回程度の開催であった。その後、参加児童も増え毎月2回程度の開催となっている。施設を有効活用するドイツのクラブチームのような発想である。

 当時から、児童生徒の体力低下が問題視されていた。特に、投能力の低下が著しく目立つようになって来た時期でもあった。また、文部科学省による小中学校の全国都道府県学力テストと体力・運動能力の調査結果から、「運動する子と、しない子の二極化が進んでいる」「運動ができる子供は勉強もできる」「習い事ができる経済力のある家庭ほど、体力と学力も高い」などの報道も見られるようになった。

 こうした社会背景を考慮し、船越先生は「走る、跳ぶ、投げる等の要素を含むハンドボールは、児童・生徒の運動能力向上に大変有効である。どんな家庭の状況の子供であっても参加できるように、会費は保険料だけにし、競技大会には出場しない」といった方針を立ててスタートされた。

 大学生にとっても、日頃自分たちが行っている競技を子供たちに教えることのお手伝いは、非常に高い教育的価値がある。将来教員を目指す学生は、指導方法の練習にもなり、先輩でもあるコーチ陣、さらには児童生徒や保護者とのコミュニケーションは、人間的に成長し、就職活動時にも語れる経験となっている。サービス・ラーニングとして位置付ければよいのにと思う。サービス・ラーニングとは奉仕活動(サービス)と学習活動(ラーニング)の実践を統合させた学習方法で、学生が教室で得た知識を地域社会において社会貢献活動を行うことだ。

 10年間に渡る船越先生の献身的なボランティア指導により、多くの子供たちが教室にて体作りを行った。船越先生には、岡山大学からも感謝状が贈呈された。10年を節目に、船越先生が引退された後は、岡山大学ハンドボール部OBの橋本光則さん、田村薫さん、笹次伸明さん、前田孝典さん、保護者でもある松井久美子さんらが中心となり、教室を引き継ぎ、ハンドボール部の学生達と共に開催している。しかしながら、コーチ陣は、現役の社会人であり仕事も忙しく、苦戦していたようだ。そんな時の中村夫妻の申し出であったため、お互いにとって良い出会いであった。

 時代も移り変わり、中村夫妻の提案で、保護者たちの希望も聞きながら、当初の方針を見直し、小さな大会にも出場することとなった。チーム名も子供達から募集し決定した。保護者や子供達には目標ができたことにより、保護者との結束も高まり、子供達も取り組みの姿勢も変わったという。初めての大会では、負けることが多かったが、応援をしてくれる方々も増え、新しい一歩を踏み出すことになったようである。

 さてこれから、という時の、新型コロナウイルスによる活動自粛により、3月からの活動が止まっている。3月に卒業する子供たちにも会うことができず、何とかしたいと考え、コーチ陣での話し合いの中で、寄付を募り、コーチからのメッセージボードと記念のマグカップを子供たちにプレゼントすることを提案した。また、折角、強くなった親子の繋がりが途切れないように、自宅にいながら親子で楽しめる動画を配信することにした。二人は教員経験者でもあり、大変良くできている。内容を見ると、何よりも夫婦仲良く実に微笑ましい。保護者や子供達はどう見るだろう。情操教育上大変有効である。

 「それにしても、お二人はいつも明るいですね。ウチナンチュ(沖縄県民)だから?」

 「ハイサイ(こんにちは)、大人が驚くほどに日々成長する子供たちの姿を見て、いつも元気をもらっています。大切なことは、うまい下手ではなく『楽しい』『やってみよう』と感じること。ハンドボールを通じて生涯スポーツに繋げることのできる場にしたいと思っています」

 確かに、子供たちの明るく元気な笑顔は、見ているだけでも楽しく、働く原動力にさえもなる。若夫婦や大学生のボランティアで開催するこの小さな教室の取り組みからは、カラダ作り以外にも,伝えられることがあることを教わった。

 ◇

三浦 孝仁 みうら・こうじ Ph.D.  IPU環太平洋大学・体育学部長・スポーツ科学センター長。岡山大名誉教授。公益財団法人岡山県体育協会スポーツ医・科学委員会委員。一般財団法人岡山市体育協会常務理事・スポーツ振興委員会・委員長。NPO HSA JAPAN代表理事。岡山大在職中に顧問を務めた同大ウェイトトレーニング部は10度の全国制覇を果たし、ハンドボール部は過去最下位から1部上位へ引き上げるなど、長年に渡りスポーツ教育・指導・研究やキャリア教育などに携わった。障がい者ダイビングの指導団体「HSA JAPAN」の代表理事も務めている。著書に「筋トレっち 走れるカラダの育て方」(東邦出版)など。早稲田大卒、日本体育大大学院 修了。1957年生まれ。

(2020年07月06日 12時32分 更新)

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