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〈思ひ出すとは忘るるか思ひ出さ…

 〈思ひ出すとは忘るるか 思ひ出さずや忘れねば〉。室町時代の歌謡集「閑吟集」にある。思い出すのは忘れていたからだ。忘れずにいれば思い出すこともない▼被災者は目に焼き付いたあの日の濁流を忘れたことはなかろう。大切な家族を失った人たちはその悲しみを決して忘れることがないだろう。西日本豪雨から2年がたった▼被害が集中した倉敷市真備町地区では徐々に復興が進んでいる。しかし、ピーク時から6割以上減ったとはいえ不自由な仮設住宅暮らしを強いられている被災者は約1200世帯、約2800人に上る▼現地を取材した本紙の連載企画「一歩、また一歩」には悲痛な声があふれている。「今はただ生きとるだけ」と老夫婦がつぶやく。「これ以上、ここにいたら頭がおかしくなる」と訴える母。息子は「首をつった自分の姿を思い浮かべることもある」と▼生活の再建に踏み出せた人と、ますます落ち込んでいく人。この差は時間の経過とともに広がっていく。長引く避難生活で体と心を病む人がいる。古里を離れて孤立を深める人がいる。打つ手がなく壊れたままの自宅に暮らさざるを得ない人たちもいる▼時の流れは刻一刻と災害を過去へ追いやる。被災者の悩みはさまざまだ。「この人にはどんな支援が必要なのか」。そう問い続けることを忘れてはならない。

(2020年07月06日 08時00分 更新)

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