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要配慮者の命守る 真備発の試み 避難場所整備や行動計画策定

スロープ付き共同住宅に入居している中本さん夫妻
スロープ付き共同住宅に入居している中本さん夫妻
 西日本豪雨の際、犠牲者の大半を高齢者や障害者らが占めた倉敷市真備町地区。災害時にこうした要配慮者の安全を守ろうと、避難場所の整備や避難行動計画の策定といった「真備発」の試みが始まっている。災害弱者の命を救おうとする共通の思いが、被災地の住民を突き動かしている。

 「『災害は怖いけん、あのアパートにちょっと行こうか』と、高齢者らが気軽に足を運べる避難場所づくりを全国に広げたい」

 6月6日、同町箭田にスロープ付き共同住宅(2階建て全8室)を開所した住民グループ代表の津田由起子さん(55)は、志を口にする。

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 同町地区で小規模多機能型居宅介護事業所を運営する津田さんは、豪雨直後、自宅で逃げ遅れた認知症の独居女性の死に直面した。スタッフとともに利用者の安否確認に奔走したが「事前に何かできなかったかという思いに駆られた」。

 周囲への気兼ねなどから避難をためらったり、遅れたりする傾向がある要配慮者向けに「歩いて行ける500メートル圏内の避難先の普及」を掲げ、モデル事業に着手。地域防災の専門家や住民の意見も踏まえた上で、国の助成金とクラウドファンディングを活用し、3千万円超の資金を投じて共同住宅を整備した。

 スロープを使えば車いすに乗ったまま2階に上がれる構造。被災者世帯は、災害時に外部の避難者を一時的に受け入れることを条件に入居する。住居部分は7室で、2階の1室は近隣住民も利用できる交流スペースとして使っている。

 入居者の中本昭彦さん(73)は豪雨時、アルツハイマーで寝たきりの妻(71)を抱えて避難所に向かうのをためらい、高台に車を走らせた。「新型コロナウイルス禍でも在宅避難を選択できるわが家で、妻と枕を並べて眠れる」と介護にいそしむ。

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 家族や地域、福祉事業者などが連携し、要配慮者を避難に導く取り組みも動きだした。災害時に取るべき行動をあらかじめ時系列で決めておく「マイ・タイムライン」の要配慮者版の作成だ。津田さんや医療福祉事業者が、国土交通省高梁川・小田川緊急治水対策河川事務所の協力を得て進めている。

 要配慮者本人分に家族、近所、組織(会社・施設・ケアマネなど)の項目を加え、それぞれの連絡先などを記載。避難の呼び掛けや候補先の決定を誰が、どのタイミングで行うのかといった必要事項を明示する。持病や服用している薬、逃げ遅れた場合に救出するため家の間取り図の記入欄も設けた。箭田まちづくり推進協議会や住民らとも協議を重ね、これまでに津田さんが軸となって中本さんの妻ら7人分を作成した。

 「災害を経験していても、要配慮者の支援協力を地域に広げるのは大変だった」と津田さん。「例えば医療福祉職がマイ・タイムラインを作成する際には財政支援するなど、行政による後押しがあれば輪は広がる」と提案する。

 箭田に隣接する呉妹地区では、まちづくり推進協議会が訪問看護ステーション、地元消防団と連携し、要配慮者宅を地図にまとめた。本人の同意を得た上で、世帯構成、避難の際に支援が必要かどうかを把握し、地域ぐるみで早期避難を目指す。

 同協議会の高槻素文会長は「要配慮者支援は身近な問題。被災経験の有無にかかわらず、皆で取り組むことで地域が元気になれば」と意欲を見せる。同地区在住者として地図作成にも携わる同河川事務所の桝谷有吾所長は「災害の多発でハードに限界がある中、ソフト対策は急務。マイ・タイムライン、地図とも要配慮者の避難支援モデルとして全国に発信できるのではないか」と話す。

(2020年07月05日 07時54分 更新)

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