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「なぜ君は総理大臣になれないのか」は、なぜ見た方がいいのか

 (C)ネツゲン
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▼映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』(大島新監督、6月13日以降全国順次公開)をお薦めします。高松市出身の小川淳也・衆院議員(立憲民主党などでつくる会派で無所属)が2003年、総務省を辞めて32歳で初出馬した時から、カメラを回したり回さなかったりで顔を合わせてきた大島監督が、2016年、「この人をもう一度きちんと取材し、記録したい。映画にしたい」と発起。小川氏が現役だから当然話は未完結ながら、いったん世に問うドキュメンタリー。お薦めする理由を幾つか連ねます。
▼【見ていられる】小川氏は「誠実」がスーツを着て歩いているような人物に見える。このため、不誠実な政治家の顔に耐えられず見るのを避けている方でも、映画館で約2時間、まずは飽きずに見ることができる。
▼【選挙に行きたくなる】「政治家」という職業がすこぶる不人気な現代、「政治家になりたい」のではなく「政治を変えたいから政治家になるしかない」と決めた一人の人間が、どんなジレンマ、壁にぶつかり苦悩するのかを、近い距離感で知ることになる。すると、政治家でなくとも、理想と組織だとか、出自の差だとか、多くの人が自分の体験を小川氏が悩む姿に投影することが可能になっていく。見終わると、支持する政党や政治家が何であれ誰であれ、あろうがなかろうが、次の選挙は投票に行かねばという思いを抱くのではないか。
▼【野党が解説】NHKや民放の世論調査でここ数年、安倍内閣の不支持理由の最上位に「人柄が信頼できないから」が来て、支持理由の最上位に「他の内閣より良さそうだから」「他に代わりがないから」が来る。消極的選択の上でも長期政権が成り立っている。なぜ彼は総理大臣でいられるのかを、野党議員である小川氏が解説していて面白い。小川氏は民主党時代の2009年、夢だった政権交代を経験したが、2012年の総選挙で民主党はあっけなく下野した。
▼【しみる場面がある】2017年秋の総選挙、小川氏がいた民進党は、小池百合子・東京都知事による新党「希望の党」に一部が合流することとなり、党が割れた。前原誠司・民進党代表の側近だった小川氏も「希望」へ合流することとなる。だが小池氏の「全員を受け入れるということはさらさらありません」発言や、憲法改正支持など主要政策への同意を求める「踏み絵」を踏まない者については「排除します」という例の発言で、風向きが変わった。暴風下の凧のように翻弄される小川氏が、選挙カーの助手席に乗って地元を走る。その合間、どこかの駐車場。後部座席にいる大島監督に、小川氏が率直な意見を求める。この場面がいい。今作で、小川氏と大島監督は議員会館、料理屋、議員宿舎などで何度も向き合って対話しているが、ここでの小川氏は助手席で前を向いたまま、後部座席でカメラを持つ監督に振り返らない。『水曜どうでしょう』の車旅における、大泉洋と藤村Dあるいは嬉野Dを思い起こしていただければよい。もちろん思い起こさなくてもいいが、他にも小川氏の両親や妻、2人の娘さんのドラマもあり、じんとくる場面、ひりひりする光景がある。
▼【誠実はダメなのか】小川氏の誠実さゆえに、大島監督の心には「もしかしたらこの人は政治家に向いてないのではないか」との思いが生まれ、その問いを本人にぶつける。果たして実直な人は政治家に向いていないのか、もし向いていないのなら、誰がそんな世界を放置して諦めているのか。突如、ブーメランが視界に現れて迫り、逃げる間もなく胸にぶっ刺さるのである。
(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第137回=共同通信記者)
★映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』は東京・ポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町での6月13日公開を皮切りに、香川・イオンシネマ高松東、岡山・シネマ・クレール(いずれも6/19公開)など全国で順次公開。

(2020年06月11日 15時42分 更新)

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