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香港国家安全法 米中対立の激化が心配だ

 中国が香港への導入を決めた国家安全法制をめぐり、米国が猛反発している。両大国の緊張関係が新たな段階に入らないか心配だ。

 国家安全法制に対する中国の決定では、香港での国家の分裂や政権転覆、組織的なテロ活動、外国勢力の香港への干渉を処罰できる。中国政府が香港に機構を設置し、治安を維持することが可能になる。中国本土同様に、政府に批判的な報道やデモは取り締まられ、インターネットへの書き込みも規制されかねない。香港の自由な言論活動は厳しく制限されよう。

 香港の返還に向けた英国と中国の共同声明では、返還時の1997年から50年は、香港の民主主義と言論、表現の自由などを認める「一国二制度」を約束した。香港市民の意思を無視し、中国が直接、法整備に踏み切ったことは一国二制度を踏みにじる行為と言わざるを得ない。

 香港で続く民主化を求めるデモに、中国政府が手を焼いた側面はあろう。だが、自らが定めた約束期間を20年以上も残して強硬な措置に出ることは、いくら「国内問題だ」と強弁しても許されるものではあるまい。

 米国はただちに、対抗措置を打ち出した。香港に対する関税や渡航などで与えてきた優遇措置の取り消し、安全保障上のリスクと見なした中国人の入国禁止、国家安全法の策定にかかわった中国や香港の高官に対する制裁などを準備するとしている。

 問題は、中国寄りだと批判してきた世界保健機関(WHO)との関係を断ち、脱退まで宣言したことだ。新型コロナウイルスが、新興国、途上国にも広がっている。今はWHOの力が必要であり、各国は協力すべき時だ。米国は、中国問題と切り離し、この決断を見直すべきだ。

 米国企業は香港という自由市場を活用し、両国関係がぎくしゃくする中でも、中国との貿易や投資を続け、利益をあげてきた。欧米や日本企業の拠点も多い。中国も外国企業との取引や外貨の調達という面で、香港を活用してきた。米国の対抗措置が現実となれば、自由市場として、アジアの金融センターとしての香港の拠点性は守れまい。

 米国では、中国から広がった新型コロナウイルスによる死者が10万人を超えている。香港問題なども加わり、国民の対中感情は悪化している。秋の大統領選に向けて支持率アップを目指すトランプ大統領にとって、弱腰は見せられない。対決姿勢をとり続けるだろう。一方の中国も、香港デモは海外勢力が支援していると批判しており、後戻りはできそうにない。

 コロナ後の経済復興を模索する世界にとって、米中両大国によるこれ以上の対立の激化は悪夢となろう。自由な貿易拠点としての香港を守るためにも、冷静に話し合う場が必要だ。日本を含めた先進国の知恵も問われる。

(2020年06月01日 08時00分 更新)

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