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(10)思い出編 (3)日本美術史家辻惟雄さん 絵巻とアニメ関係紡ぐ

絵巻物のような「かぐや姫の物語」について「姫の内面に光が当てられ、ラストシーンは目頭が熱くなった」と話す辻さん
絵巻物のような「かぐや姫の物語」について「姫の内面に光が当てられ、ラストシーンは目頭が熱くなった」と話す辻さん
1999年に千葉市美術館で開かれた展覧会「絵巻物―アニメの源流」展は高畑監督が発案。絵巻とアニメの関係性についてクローズアップした
1999年に千葉市美術館で開かれた展覧会「絵巻物―アニメの源流」展は高畑監督が発案。絵巻とアニメの関係性についてクローズアップした
 高畑勲さんと私は東京大教養学部の駒場寮で同室でした。3歳年上の私は2年生で、高畑さんは新入生。真面目でおとなしく、初々しい青年だったと記憶しています。

 1年間の短い付き合いでしたが、一緒に音楽喫茶や居酒屋に足を運んだのがいい思い出ですね。互いに寮の美術サークルに在籍し、スケッチ旅行に行ったり展覧会を企画したりもしました。3年生になると私は寮を出て美術史学科に、高畑さんは仏文科へ進むことになりました。

 卒業後、風のうわさで東映動画に入社したと聞きました。私はアニメーションをほとんど見たことがなく、「面白いところに入ったな」という認識。彼も彼で、江戸絵画を紹介した私の著書「奇想の系譜」(1970年)を読むなど注目してくれていたようでしたが、再び交流を持つのは40年近くたった後でした。

 私が千葉市美術館長を務めていた97年、高畑さんが突然、館長室に現れて驚きましたよ。聞けば、日本美術史の研究に凝っているとのことで、「アニメーションの源流は12世紀の絵巻物だと思う。展覧会で表現したい」と言われまして。

 アニメや漫画のルーツが絵巻である、なんて考えたこともありませんでした。大変興味深い発想ではないでしょうか。この提案を受けて、絵巻とアニメとの関係をテーマにした「絵巻物―アニメの源流」展(99年)を開くことになりました。

 美術の様式は、多くは時代が新しくなるにつれて進化するんですが、不思議なことに絵巻は古い時代ほどスピード感や迫力があり、12世紀には既に最高点に達しています。高畑さんもこのことを熟知しており、平安、鎌倉期の「伴大納言(ばんだいなごん)絵巻」「信貴山(しぎさん)縁起絵巻」「鳥獣人物戯画」を特に評価していました。

 展覧会では「百鬼夜行(ひゃっきやこう)絵巻」(16世紀)など中近世の作品も含めて取り扱いました。これらの絵巻に登場するのは、世俗の民衆、人間に似せた動物、異形の妖怪たち…。“彼ら”に共通する生き生きとした躍動感は、そのまま現代のアニメに通じるのではないでしょうか。中でも妖怪たちの姿は目を見張るものがありました。

 高畑さんが、それをアニメ映画で見せたのが「平成狸合戦ぽんぽこ」(94年)でしょう。化け物絵を基に、古来の妖怪を総動員したような演出がなんとも愉快。自然破壊に対する強烈な風刺の物語に、見事な娯楽性を生み出しています。

 日本美術の引用をふんだんに盛り込んだ「かぐや姫の物語」(2013年)はさらに目を見張りました。全編が自動で動く絵巻物のよう。絵は淡泊なだけではなく、要所要所でスピード感ある強い描写を展開し、盛り上げています。余白や濃淡を生かした透明感ある背景も素晴らしく、四季折々の自然の美しさを紡ぎだし芸術性を感じさせます。絵巻とアニメーションのつながりを、見事に作品の中で表現しているんです。

 「日本美術の伝統があるから、日本のアニメーションは独自に発展した」という高畑さんの観点に納得させられました。彼は自身の領域にとどまらず、新たな視点から日本美術に光を当てたんです。それは日本美術史の専門家だけではなし得ない、大きな功績でしょうね。

 つじ・のぶお 1932年名古屋市生まれ。東京大文学部美術史学科卒、同大大学院博士課程中退。東京大文学部教授、千葉市美術館長、MIHO MUSEUM館長などを歴任。現在は東京大、多摩美術大名誉教授で、MIHO MUSEUM顧問を務める。日本美術史上で異端児とされていた岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、歌川国芳らを著書で取り上げ、「奇想の画家たち」と再評価した。2016年文化功労者、18年瑞宝重光章受賞。神奈川県鎌倉市在住。

(2020年04月26日 11時02分 更新)

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