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(8)思い出編 (1)アニメーター小田部羊一さん 表現を深めた「同志」

「ハイジ」のキャラクターデザインで知られる小田部さん。「高畑監督から同志と呼ばれたことに誇りを感じる」と語る
「ハイジ」のキャラクターデザインで知られる小田部さん。「高畑監督から同志と呼ばれたことに誇りを感じる」と語る
高畑監督(中央)のフランス芸術文化勲章オフィシエの叙勲式に出席した小田部さん(右)。左は高畑監督の妻かよ子さん=2015年、東京のフランス大使公邸
高畑監督(中央)のフランス芸術文化勲章オフィシエの叙勲式に出席した小田部さん(右)。左は高畑監督の妻かよ子さん=2015年、東京のフランス大使公邸
 アニメーション映画界の巨匠、高畑勲監督(1935~2018年)は深い思考とあくなき探究心で、数多くの名作を日本アニメーション史に残した。「思い出編」では、ともに製作に打ち込んだ仲間や家族、ゆかりの人々にその仕事ぶりや人柄、印象に残るエピソードを語ってもらう。

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 高畑勲さんと僕は1959年、東映動画に同期入社した。僕はもともと漫画好きで絵も描いてたけど、高畑さんは東京大でフランス文学を専攻した秀才。「なんで漫画映画の道に」と不思議に感じたな。

 初めて同じ作品に関わったのは「わんぱく王子の大蛇退治」(63年)だった。僕は原画補で、主人公とヒロインが天馬に乗って空を飛ぶシーンを描いたら、演出助手の高畑さんが「カットのつながりがおかしい」と指摘してきた。その時は僕も若かったもんだから「何を言っている。僕は僕のイメージで作ってる」と押し通したんだ。

 このやり取りを、女性アニメーターの草分けで、後に僕の妻となる奥山玲子さんが見ており、「あの高畑さんに突っかかるなんてたいした人だ、と見直した」と言っていた。それだけ、若くして既に演出の才能を発揮していた高畑さんの信頼は厚く、発言力もあったということ。

 高畑さんの作品と向き合う姿勢や馬力はすさまじかった。「太陽の王子 ホルスの大冒険」(68年)を演出すると聞き、迷わず参加した。高畑さんとともに、僕たちアニメーターも何とか良い作品にしたいと意見を出し合った。会社とは対立し興行的にも振るわなかったが、「自分たちの作品」だという意識を持て、本当の意味で僕の原点となったんだ。

 その後、子どものための作品を作ろうと、高畑さん、宮崎駿さんとともに東映動画を出たが、なかなか思い描いた仕事はできていなかった。そんな時にズイヨー映像から打診されたのが「アルプスの少女ハイジ」(74年)。自分たちが納得のいく作品をと3人で制作を決断し、ロケハンもすることになった。

 ロケハンでは現地を見ることも大切だったが、高畑さんは「スイス人の描く風景も知っておこう」と提案し、美術館にも足を運んだ。実際、スイス人の絵の世界から学べたことは多かった。本当に勉強熱心な人だったな。ロケハンがあったからこそハイジの世界観は出せたんだと思う。

 「母をたずねて三千里」(76年)の制作を終え、続く「赤毛のアン」(79年)にも誘われたが断った。自分の中でマンネリ感が漂い始めたため、独立することにした。その後は「マリオブラザーズ」などのゲームデザインの道に進むが、高畑さんが監督した「じゃりン子チエ」(81年)やプロデューサーを務めた「風の谷のナウシカ」(84年)にフリーの立場で参加し、縁は続いていた。

 「かぐや姫の物語」(2013年)の公開翌年に高畑さんと一緒にイタリアを訪れたことも思い出深い。イタリアではハイジが根強い人気で大歓迎されたが、高畑さんは滞在中、一切ハイジの話をしない。実は海外版は内容も主題歌も少し手が加えられていて、監督という立場上“僕らのハイジ”でないものは認められない、との姿勢を貫いたのだろう。

 徹底したこだわりぶりで、いかにも彼らしい。ただ現地の方が、かぐや姫の主題歌を日本語を交えて披露した際には、満面の笑みで拍手を送っていたよ。

 もう一つ、忘れもしないのが、フランスでアニメーションの会合に参加した時のこと。現地の冊子に私のことを「同志」と紹介してくれた。先輩アニメーターの大塚康生さん、宮崎さんとともに、「アニメーションの表現を深めた同志である」と。彼の文章や言葉には説得力があるだけに、とてもうれしかったな。アニメーションは、信頼できる仲間があってこそ出来上がるもの。高畑さんと出会え、作品作りの機会に恵まれたことを幸せに思う。

 こたべ・よういち 1936年台湾生まれ。戦後、日本に引き揚げる。東京芸術大から東映動画に入り、アニメーションの道へ。高畑作品のほか「空飛ぶゆうれい船」「龍の子太郎」などで作画監督を務めた。日本アニメ草創期にアニメーターを目指す女性を描いた連続テレビ小説「なつぞら」で時代考証を担い、妻の故奥山玲子さんは主人公のモデルとされた。ゲームではポケットモンスターやマリオシリーズなどのイラスト、キャラクター監修を務める。埼玉県所沢市在住。

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 岡山県立美術館(岡山市北区天神町)は15日、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、29日~6月21日に予定していた特別展「高畑勲展 日本のアニメーションに遺(のこ)したもの」(山陽新聞社など主催)の会期を延期すると発表した。新たな会期は後日公表する。

 岡山ゆかりのアニメーション監督・高畑勲さん(1935~2018年)の歩みをたどる同展は当初、4月10日~5月24日に予定。3月末に会期変更を決めて開催を目指していたが、終息する兆しが見えないため再度延期する。問い合わせは同館(086―225―4800)。

(2020年04月16日 11時14分 更新)

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