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この地に生きる2(1)宇津見樹相さん(32)=津山市 技術学び新分野を開拓

宇津見樹相さん
宇津見樹相さん
業界では珍しいという自社加工場。仕入れた石を丁寧に切断していく
業界では珍しいという自社加工場。仕入れた石を丁寧に切断していく
 「後を継いでほしい」。祖父の秀夫さん(88)が初めて漏らした本音で進路は決まった。津山商高3年の夏のことだ。

 宇津見石材店(津山市小田中)の創業は、江戸時代後期にさかのぼり、市内で最も古い石材店という。市中心部の船頭町に構えていた店を明治27(1894)年に現在地へ移転。墓石を取り扱う店では少ないという自社加工を行うことで、品質管理しやすく、石を無駄なく使えるとする。

 だが、供養の在り方は変わりつつあり、業界を取り巻く状況は厳しい。墓を管理できないとの理由で墓じまいや大勢の遺骨を一緒に納める「合葬墓(がっそうぼ)」、地方から都市部への墓の引っ越しは増える傾向にある。

 両親から「自由にしていい」と言われて育ち、一つ上の長男は看護の道を選んだ。しかし、幼い頃から店舗や工場で秀夫さんや現社長の父要さん(71)らが働く姿を見てきただけに「親しみのある、長く続く店をつぶしてはいけない」と自然に思えた。

 曲線で仕上げたオブジェ風、思いを込めた文字を大きくくりぬいたもの…。

 顧客の多彩な希望に応える「デザイン墓石」。現在は専務の樹相さんが2012年から手掛けている新商品は、「家族で何度も話し合い、家業に役立つところを選んで進学した」経験が生かされている。

 「石を扱う」との理由で進んだ東京農業大短期大学部環境緑地学科(当時)で石材加工や造園のノウハウを学び、家業を1年手伝った後に同大造園科学科3年に編入学。さらに知識を深め、11年に津山に戻った。

 新たに取り入れていたコンピューターグラフィックス(CG)による図面設計を担当。要さんの指導も受けながら、江戸時代に庶民に広まったとされる縦長の「和型」を中心に腕を磨き、デザイン墓石の商品化につなげた。

 高級石材・庵治石の産地で知られる香川で開かれた一昨年の庵治ストーンフェア。樹相さんが出品した枯れ山水をイメージした花立ては、最高賞に輝く。その後、県美術展覧会にも石彫を出品し、第69、70回の彫刻部門で地域奨励賞、岡山市長賞を獲得した。

 働きながら「ほとんど趣味」で始めた彫刻は「芸術」の分野だけでなく「仕事」の可能性を広げている。17年に立ち上げた通販サイトで、オリジナルデザインの香立てや置物などを販売。造園知識やデザイン力を基に「これまでのお客さまを大切にしながら新しいことに挑戦したい」と寺の庭園造りにも参入し、業績を伸ばしつつあるという。

 「自分が育った場所に戻るのは当たり前。学んできたことを地元に持ち帰り、恩返ししたい」と語る樹相さん。地域に根差し「一生ものの、いつまでも残る仕事」を続けていくつもりだ。

(2020年04月08日 16時52分 更新)

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