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なぜ売れた?「応仁の乱」 今年上半期最大の「問題作」

2017/05/04 08時31分 更新


 「応仁の乱」(中央手前)と関連本

 タイトルはありきたり、装丁は地味。有名な作家・学者の著作でもない。読んでみると、いかにも研究者的な手ごわい文章で、なかなか先のページへ進まない。

 でも、なぜか大ヒット。呉座勇一「応仁の乱」(中公新書)が、昨年末からずっと書店のベストセラーランキングの上位に入り続けている。出版関係者でさえ「なぜ当たっているのか読めない」という、今年上半期最大の「問題作」がウケるワケについて、日ごろ本の海に漬かっている共同通信文化部の記者3人による読書ユニット「シオドメ読書会」(通称・シオドク)が解読を試みた−。

▽禁じ手をあえて

田澤穂高 著者の呉座は京都の国際日本文化研究センター助教。「一揆の原理」とか、中世の専門家。「応仁の乱」は去年10月の刊行。8刷りで32万まできた。うちの記事で初めて触れたのは、12月の書店ランキング。三省堂書店神保町本店で7位に入って、それから、ずっと10位以内。でも、売れ続けているが、正直、よく分からない。一時は、国民的作家、村上春樹の新作「騎士団長殺し」に抜かれたが、その後、「応仁の乱」が抜き返した。去年の今ごろ、まさか「応仁の乱」という本がベストセラーのトップを走るなんて、誰も思わなかったでしょ。

高見浩太郎 僕はこの本が出た時にかなり期待したんですよ。でも正直言って、面白いと思わなかった。「見る目がなかった」と言われれば、何も言えない。でも、「コレじゃないだろう感」が相当強かった。興福寺の僧侶2人から見た、大和国(奈良県)の混乱と応仁の乱が入り混じっている。その手法はユニークだけど、応仁の乱の全体像は結局よく分からないままだった。

田澤 「応仁の乱」は、扱うに難しいテーマ。この本の前書きにあるように、「有名な戦乱」だけど「難しい」し「人気もない」。応仁の乱を題材にしたNHK大河ドラマ「花の乱」(1994年)は、当時の歴代最低視聴率を記録した。そのこともあって、応仁の乱は禁じ手という感もある。

森原龍介 内容によって売れているのではなく、イメージで売れているのでは。何しろ「英雄なき時代のリアル」という帯のキャッチフレーズは目を引くし、「応仁の乱」という名前だけ知ってるけど、誰もうまく説明できない、という事実を読者が突きつけられること自体が面白い。有名なのに知られていないという、逆手に取ったイメージ戦略が効いたと思う。当初はそこまで意識しなかったかもしれないが。

田澤 ネットのレビューでは「野心的な本」「話題の書であり、高校受験レベルしか知らない室町時代について知りたいなーと思って挑戦しましたが、いかんせん難し過ぎでした」「人間関係が複雑で、一度読んだだけでは、十二分に理解することは難しいのではないか」など。要は、難解だという声が多い。

高見 担当編集者は「むしろ難しさを楽しんでいる読者も多いのでは」と言っていた。

田澤 新書のヒットのトレンドにも外れている。最近のベストセラーは、橘玲の「言ってはいけない」(新潮新書)や井上章一の「京都嫌い」(朝日新書)など。もうちょっと前では、下重暁子の「家族という病」(幻冬舎新書)。とても「応仁の乱」と共通点が見えない。今の時代を独自の切り口で伝える、あるいは、2時間で読める感動ものが、新書のトレンドだろうが、「応仁の乱」はそのどちらでもない。難しくて、2時間でこの本は読めないだろう。登場人物も多いし。

森原 新書のイメージも作りもどんどん「軽量化」していく中で、中央公論社ならではのオーソドックスで質実剛健な本づくりが逆に好感を持たれたのでは。

田澤 最近は、ヒットを読み解く書き込みも出てきた。「乱の一因となった中世の大和国の混乱なぞ、まるで昨今のシリアやイラク情勢のようである」「政治や宗教が混ざり合う複雑な情勢の解決に成功しない幕府や朝廷の姿は、国連や米露の超大国の二重写しに見える」。「室町時代」は、現代的な主題だったのだろうか。

▽「行き詰まり感」が現代に似る

森原 この本と、よく引き合いに出されるのは、垣根涼介の小説「室町無頼」(新潮社)。これは応仁の乱の直前の時期を扱っている。垣根は「先行きの見通しやすい昭和であれば、同じように社会が安定していた江戸時代を描く時代小説が受けた。先行きが不透明な今は、同じように世の中が混乱している室町時代が受けるのではないか」と言っている。「今の時代の世相性、行き詰まり感とすごい似てるんです」と。

田澤 ほう。

森原 もう少し小説のトレンドに触れると、今、古代史小説もかなり盛り上がっている。新しい書き手が参入する際に、すでにたくさん作品の書かれている戦国時代や江戸時代だけでなく、古代や中世など、ニッチなところに向かうという傾向もあるだろう。ノワール小説の馳星周も、昨年の歴史小説第1作で藤原不比等を取りあげた。「若冲」で直木賞候補になった澤田瞳子も古代史をテーマにしている。そうした流れの一つとして、同じようにあまり着目されてこなかった室町時代を扱う小説も出てきているのではないか。ただ、垣根によると、売れ行きはいまいち?だとか。「成功例がないんですよ。実は。室町時代を書いて売れた小説がない」とぼやいていた。

高見 幕末や戦国のような作品が多い時代に比べると、書き手にとって自由度が高いのではないか。室町というと、世の中の人はゲームの「信長の野望」的な戦国時代のイメージで考えがちだが、大名にしろ、いくさにしろ、在り方が全然違う。それが結果的に新鮮に見えたのかもしれない。知らないからといって、必ずしも売れない訳ではない。知らないから知りたいという人もいる。「関ケ原」はあっても、「応仁の乱」が1冊で分かる本はなかった。

森原 小説にはなりそうにないけど、ある種の「退屈さ」を発見させたことで、売れてるのでは。

高見 応仁の乱の本質を簡潔にまとめた終章はとても分かりやすく、むしろここから先に読むのがおすすめ。そこから最初に戻って読めば、挫折することなく、読み通せるのではないか。きちっとした索引を付けたものもいい。しっかりした学術書を作ろうというようなオーソドックスな中公らしさが感じられる。

▽他社は悔しがってる?

田澤 「応仁の乱」が売れて変わるのかな、出版界は。

高見 他社の新書の担当者は相当悔しがっているらしい。そりゃそうでしょ。でも、実はこれは「フツー」の中公新書で、ヒットに版元が一番驚いているのでは。最近の中公新書は、「人口と日本経済」、「ウニはすごい バッタもすごい」など質が高く、セールス面でも結果を出す作品が連発していて、頭二つぐらい、ほかの社をリードしている。

田澤 室町本は増えるのか

高見 そういう発想だとヒットは出ないだろう。ただ、室町時代は混沌としているので、大名、地侍、浮浪民まで主人公になりうる。応仁の乱に出てきた登場人物を出してヒットすることはあるだろう。勇猛果敢な畠山義就を主人公にした小説とか、どこか企画を進めてそうな気もする。

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