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『犬も食わない』尾崎世界観・千早茜著 男と女はなにゆえ付き合うのか

 

 この2人は、どうして付き合っているんだろう。

 ひと組のカップルの、それぞれの独白で綴られた本書。男の言い分を尾崎世界観が、女の言い分を千早茜が綴っていく。

 出会いは最悪である。男が女に傷を負わせ、女は男をむちゃくちゃに罵って、でも、そのあと、どうやらセックスしたようである。女は自分の先輩が関わっている「意識高い系」のイベントに男を連れてくるが、男がまったく気乗りしていないため、彼の一挙手一投足に女は苛立っている。そして男も、そのことに気づいている。自分は「意識高い系」の皆さんにどうしても馴染めない。今度は男が、皆さんを罵る。女はうつむいて黙る。

 こんなにも互いの「世界観」が違うのに、それらをすり合わせようとすると大惨事が起こるだけなのに、それでも「セックスをした」、ただそれだけで、男と女は付き合わなきゃいけないんだろうか。読みながら浮かんだ問いは、だから冒頭の一行である。この2人は、どうして付き合っているんだろう。すると、その瞬間を女の視点から捉えた展開は、こうだ。

 実は女も、そのイベントのすみずみに至るまで、苛立っていた。先輩との関係を気にして、外に出さなかっただけ。彼がわめき散らした数分後、彼女もわめき散らすのだ。「意識高い系」の皆さんへの嫌悪を。

 男と女は同類項であることが、最初の数往復にして知らされる。

 次の数往復では、同居生活が描かれる。またしても主人公たちは互いに苛々している。「じゃあどうして同居しているんだろう」と思わされる描写が続き、それへのアンサー(ともつかない何か)がその後に続く。

 要は、「伝える」ことが恐ろしくド下手な2人なのである。ある者は罵り、ある者は黙る。「理解」なんて目指しちゃいない。2人の心がどんどん、ぎすぎすしていく。別れちゃえばいいのに。その方が、きっと楽なのに。

 けれど彼と彼女の世界は、白でも黒でもない、グレーの階調でできている。別れようと切り出した女を男は抱きしめる。抱きしめればどうにかなると思って。付き合うか別れるかの二択ではなく、「別れようと思いながらも続いていく日常」を彼と彼女は生きる。

 物語の終盤、ようやく2人は「手紙」という手段に至る。そこで綴られる言葉たちは、果たして本音か否か。それは、当の本人たちにも、まるでわからないのかもしれない。

(新潮社 1300円+税)=小川志津子

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