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新酒シーズン、いよいよ幕開け 旨い酒…入り混じる期待と緊張

しぼりたてのはつらつとした酸と生原酒のボリューム感が、トマトソースの酸とよく合った=2018年年2月撮影

蔵人が丁寧に醸した酒がしぼられると、蔵内には新酒の華やかな香りが漂う

 季節は秋。朝夕の冷え込みが厳しくなりつつあるこの頃、地元の酒蔵では今期の酒造りが続々と始まっている。中には醪(もろみ)を既に数本仕込んだ蔵もあると聞く。早いところで11月中旬頃には、蔵元から新酒の便りが届く。

 それを今か今かと待ちわびる、我ら飲み手たち。醸造技術や設備の向上が著しい昨今では、フレッシュな口当たりの酒が季節を問わず味わえるようになったが、とれたての新米で仕込んだこの時期限定の「初しぼり」や「しぼりたて」の魅力に勝るものはそうそうない。贔屓(ひいき)の酒を飲み、その年の出来栄えや味わいを評価するのも、愛酒家にとっては何よりの楽しみなのだ。

 一方で、早朝から酒造りにいそしむ杜氏や蔵人たちの姿に思いをはせ、今期も事故なく旨(うま)い酒を醸してほしいと心から願う。造り手にとっても飲み手にとっても、期待と緊張とが入り混じるこの季節。だからこそ、ひと口ひと口、大切に味わいたい。

 市販されている日本酒の多くは、原酒に加水をし、アルコール度数を15度程度に調整。さらに品質の劣化を防ぐため貯蔵熟成の前後に火入れを行うのが一般的だが、しぼりたての新酒の多くは加水も火入れも行わない“無垢な酒”である。若々しく青冴(あおざ)えした外観。ほんのり滓(おり)が絡んだものも。香りは爽快かつ清涼感に満ち、含むとみずみずしさとともに舌を刺激するような荒々しさやほろ苦さ。さらにはピチピチと弾けるガス感を残したものまであり、造り手の感性や技術によって表現される酒質はまさに百花繚乱(りょうらん)だ。

 しぼりたて特有の香りや味わいは夏を越すとともに円熟味を増し、秋を迎える頃には春先に見られた荒々しさがすっかり取れた「秋上がり」へと昇華する。しかもこの時期は、その「秋上がり」と今期の新酒とが堪能できるぜいたくなシーズンでもある。料理によって、または飲むシチュエーションによって、多様なタイプの酒を合わせて楽しむのも一興だろう。

 ジャンルを問わずさまざまな料理と合わせてたしなむことができる懐の深さこそが、日本酒の大きな魅力のひとつだが、あえてしぼりたての新酒と合わせるなら、新鮮な魚介の造りはもちろん、湯豆腐、焼き魚などシンプルな味つけの料理がおすすめ。アルコール度数がやや高い生原酒なら、チーズや鍋料理などボリュームのある料理に合わせるとぴたりと寄り添うだろう。また酸のパンチが効いた力強い味わいの酒には、肉料理とも絶好の相性を見せるはずだ。「ペアリング」や「マリアージュ」などと構える必要はない。秋の夜長、いつもの家庭料理に合わせてちょっと一献、気軽に杯を傾けてはいかがだろう。

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 市田真紀(いちだ・まき) 広島市出身の日本酒ライター。最近の主な活動は、日本酒業界誌『酒蔵萬流』の取材執筆や山陽新聞カルチャープラザ「知る、嗜む 日本酒の魅力」講師など。このほか講演やイベントの企画・運営を通して、日本酒や酒米「雄町」の認知拡大を図っている。夏は田んぼ、冬季は蔵が取材フィールド。たまに酒造り(体験・手伝い)。SSI認定きき酒師、同日本酒学講師。J.S.A SAKE DIPLOMA取得。1970年生まれ。

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