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トレランは中山間地域を救うか 低コストで地元PR、高齢化など課題

岡山県内外から620人が参加した「那岐ピークスタフトレイルチャレンジ2018」。山道などをそのまま活用できるトレイルラン大会が中山間活性化策として注目を集める=6月

 山道を駆け抜け、「山岳マラソン」とも呼ばれるトレイルランニング(通称トレラン)大会が、中山間地域の自治体から注目を集めている。豊かな自然があれば大きな投資をしなくても実施でき、遠方から愛好家が訪れるとあって、全国で開催が相次ぐ。スポーツで観光振興を図る「スポーツツーリズム」の有力株である一方で、集客が一時的で効果が実感できなかったり、住民の高齢化でスタッフ不足に悩んだり、課題も抱える。各地の取り組みを取材した。

 カラフルなスポーツウエアを身にまとったランナーが、号砲とともに一気に駆け出す。6月上旬、初めて開かれた「那岐ピークスタフトレイルチャレンジ2018」。県内外から参加した620人が向かうのは、津山市勝北地域と奈義町に連なる那岐山系の山だ。食料や水分などを詰め込んだバッグを背負い、高低差のある27キロと48キロの2コースを長い人だと半日以上かけて走る。完走した会社員男性(47)=徳島市=は「きついコースだったが、見晴らしがよかった。この大会でいい山を知るいい機会になった」と笑顔を見せた。

■高まる人気

 トレランは欧米発祥のスポーツで、国内の競技人口は20万人(2014年、日本能率協会総合研究所調べ)。ランニングや登山の延長として始める人が多く、近年人気が高まっている。山などの未舗装の道を走ること以外は特に決まりがなく、走る距離は10キロ前後から100キロを超えるものまである。

 ランニングポータルサイト「RUNNET(ランネット)」で参加者を募集する大会は約250(17年)と、3年で100近く増えた。岡山県内では同サイトに3大会が登録されているほか、愛好家によるイベントも数大会ある。

 走る距離やコースは各地の事情に合わせて設定ができ、都市型マラソンのようにエイドステーション(補給所)で地元産品をPRできることも特長。装備や遠征費などへの支出が掛かるため、金銭的に余裕がある愛好家が多いとされ、前夜祭や別のイベントを組み合わせ、宿泊や飲食の消費を促す大会も目立つ。イワナの渓流釣りや山菜採りをセットにした富山県南砺市利賀村の大会が16年、スポーツツーリズムで初のスポーツ庁長官賞を受賞したことも開催機運を高めている。

■知名度の低さネック

 今年初めて那岐ピークスタフトレイルチャレンジ2018を主催した一般社団法人頂(いただき)の豊饒(ぶにゅう)光邦代表理事は「開催費用は参加者のエントリー費で回収でき、規模にもよるが200万円程度で開催が可能。地域PRにもなる」と費用対効果の高さを強調する。一方、「競技自体を知らない人が多いので、周辺を説得して開催にこぎ着けるまでのハードルが高い」と明かす。

 構想から大会実現までは2年かかった。自治体は失敗するリスクを負いたくない。住民は何が行われるのか分からない。地元町内会などへの説明会やトレランの練習会を定期的に開き、競技への理解を求めた。当日は地元を中心に200人超のボランティアが、交通整理やエイドステーションでランナーを支えた。奈義町観光協会の鷹取渡会長は「どんなおもてなしをしてよいか分からなかったが、喜んでもらえた。練習や観光でまた来てもらいたい」と期待する。

 豊饒代表理事は「初回が成功したことで、トレランの良さが多くの人に伝わったと思う。来年は前夜祭なども行い、参加者の宿泊にもつなげていきたい。5年、10年かけて街づくりにつながる動きにしたい」と意気込む。

■お金の受け皿づくり急務

 今年3回目を迎える新庄村は、新たなスタートを切る。春のがいせん桜まつり、森林セラピー、登山に次ぐ誘客の目玉にしようと、国が地方創生に向けて新設した山村活性化支援交付金の一部を活用して過去2回実施。交付金終了に伴い、運営主体が村から第三セクター「まちづくり新庄村」に変わる。事務局の杉村礼美さんは「大会を継続するために、村に住む人たちが作る大会にしたい」と力を込める。

 大会名も「新庄蒜山スーパートレイル」から「フォレストレイル新庄蒜山」に改めた。財源はエントリー費に加え、目的別ふるさと納税などを活用。申し込みも順調に伸び、募集を開始して2カ月後には540人の定員に達した。

 気掛かりなのは「地元にお金が落ちる受け皿」だという。村には農家民宿2軒以外に宿泊施設がなく、参加者は民泊や公民館で仮眠してレースに臨む。昨年は土産物を販売する道の駅が改装中だったため、観光客数はここ5年で最低だった。継続的な効果が実感できていないのが実情だ。

 新庄村産業建設課の山田遼平主事は「アクティブな人たちが村を訪れる機会はこれまでなかった。トレランは新庄村を知る、良さを感じる、製品を買うというサイクルを作るきっかけになる。そのためには、お金を使ってもらえるような観光施設整備、通信販売でも買いたいと思うような製品開発にも力を注がないといけない」と話す。

■のしかかる高齢化

 トレランがブームになる前の09年、「神流(かんな)マウンテンラン&ウオーク」を始めた群馬県神流町。埼玉県との県境に接する山あいにある人口1800人ほどの町だ。11月には記念すべき10回目を迎える。町の担当者は「毎年リピーターも増えて、参加者と町民の交流が生まれている。祭りのように盛り上がるイベントに成長している」と効果を語る。

 ただ大会を支える住民の高齢化が影を落とす。町の高齢化率(65歳以上の割合)は58%と、全国平均の27.7%(17年内閣府調査)を大幅に上回る。400~500人のボランティアは町内の各種団体に依頼しているが、今年の大会規模を例年より300人多い千人にすることもあって、町民だけで実施するのは難しい状況が近づいているという。

 「限界が見えているとはいえ、町民には『自分たちが盛り上げている』という自負が強い。町外の人に頼むにしても、うまくバランスを取らないといけない」と担当者は頭を悩ませる。

 国内の大会をプロデュースするプロトレイルランナー奥宮俊祐さん(39)=埼玉県=は「都市ではできないトレラン大会が、地域の誇りを取り戻す機会になっている。大会を続けるためには、支える住民がメリットを感じ、疲れすぎない仕組みが必要。宿泊や観光といったお金が落ちる仕組みや、大会を幅広く支える体制を整えることが鍵になる」と話している。
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