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環境まちづくりを問い直す(上) みずしま財団の誕生から

水島地域環境再生財団(みずしま財団)副理事長、太田映知さん

倉敷市水島地区の街並み

 「何故、和解であったのか。水島では、コンビナート企業は裁判で負けるとは思っていなかった。水島の住民も、日本の大企業に勝てるもんかというのが一般的な考えだった。一審では勝ったが、裁判で和解をした。勝ったことになっていたけれども、勝ったも負けたもなくて、和解は和解なんだ。客観的にそう思っている」

 筆者は縁があって、倉敷市の水島地域環境再生財団(みずしま財団)副理事長、太田映知(てるとも)さんのインタビューを行った。みずしま財団は、1996年12月に結ばれた倉敷公害訴訟の和解金の一部を使って設立された財団であり、主にぜんそく・COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者への支援、瀬戸内海の環境調査、八間川の自然観察、公害資料の公開を通じたまちづくり活動をしている。

 太田さんは山口県宇部の生まれで、水島で育ったが、公害患者会の活動と訴訟、そして、みずしま財団の運営に携わってきた。筆者が水島のまちづくりで注目したのは、和解金からみずしま財団が設立された背景である。太田さんは笑顔の魅力的な老紳士であるが、眼光は鋭い。語り掛ける口調はあたたかい。和解は、どのように生まれたのか。

 倉敷公害訴訟が1983年11月に提起された時、国内では大気汚染被害を訴える裁判が先行していた。千葉・川鉄、大阪・西淀川、川崎の三つである。これに倉敷を加えて四大公害訴訟と呼ばれ、社会の大きな関心を集めた。96年までにはすべての裁判が和解で解決したが、その間に企業・国・自治体が環境問題に向き合い、責務を果たさなければならないという共通認識が形成されていった。

 「もう解決しないといけなかった。世論の大きな流れがあり、裁判の技術の問題でもなかった。結局、企業の大気汚染対策は強化された。環境に対する意識の変化が大きかった」

 太田さんのお話からは、倉敷公害訴訟和解の前日に川崎公害訴訟の和解がなされたように、公害裁判は、地域個別の訴訟というよりは、公害を受けた都市の連帯による全国的な運動であったことが分かる。しかし、決定的に重要だったことは、企業と患者さんとの間の和解であると同時に、わたしたち一般市民における環境意識の高まりだという。確かに、1992年には、ブラジルのリオ・デジャネイロにおいて環境と開発に関する国際連合会議が開催され、グローバルな規模で持続可能性への関心が高まる時代であった。では、和解からまちづくり活動への発展はどのような意味があるのだろうか。

 「地域を全体として住みよくしていく、そのような街にならないと公害問題の解決にはならない。公害地域に住む人がなんとかしないと。感情的にも、地域の人たちの応援なくして裁判は続けられなかったのだから、和解金は原告のものだけれど、地域の応援がないと得られなかったものでもあるんです」

 倉敷公害訴訟の和解条項には「解決金の一部を原告らの環境保健、地域の生活環境の改善などの実現に使用できるものとする」との一文が盛り込まれた。和解金が被害者救済だけでなく社会貢献に振り向けられるのは画期的だった。公害によって疲弊した水島の環境を回復させ、その効果を地域に広げていくことに意義がある。

 公害の解決には地域全体でまちづくりに取り組むこと、みずしま財団の原点はそこにあったのだ。みずしま財団における地域密着型の姿勢は、財団が岡山県の認可団体として設立されていることからも明らかであるようだ。みずしま財団のモデルは、1996年に誕生した大阪市西淀川区のあおぞら財団(公益財団法人 公害地域再生センター)であるが、こちらは環境庁(当時)の認可によって設立されており、全国的な展開も期待されているそうだ。次回は、財団が水島のまちづくりに踏み出し、目指しているものを紹介する。

 ◇

岩淵 泰(いわぶち・やすし) 岡山大地域総合研究センター(AGORA)助教。都市と大学によるまちづくり活動に取り組む。熊本大学修了(博士:公共政策)。フランス・ボルドー政治学院留学。カリフォルニア大学バークレー校都市地域開発研究所客員研究員を経て現職。1980年生まれ。

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