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第3部 光と影(4)扉を開こう 鳥かごから止まり木へ

西江理事長(右)、P.P.P.の新たな理念を象徴する絵本の一節(中央)、運営する事業所で働く利用者のコラージュ

 〈かごの中のぴーちゃんは、空を飛ぶことも、空が飛べる場所だということも、知りません…〉

 25ページの絵本はこんな語り口で始まる。

 飼い主に守られて大切に、大切に育てられる小鳥のぴーちゃん。〈本当にそれでいいのでしょうか〉と問い掛けながら物語は進む。初めて舞った大空は楽しいばかりではなかった。怖い鳥や風雨に遭い、飛ぶのに疲れてしまったこともある。そんなときは〈止まり木で休めばいい〉と続き、最後にこう呼び掛ける。

 〈鳥かごの扉を開こう。そして、止まり木をたくさんつくろう〉と。

 絵本は社会福祉法人「P.P.P.」(倉敷市福田町福田)のスタッフが昨年1月に作ったオリジナル。小鳥は「障害者」を、鳥かごは「福祉施設」を、そして大空は「地域社会」を示す。

 その狙いは、障害者が働く就労継続支援A型事業所や、共同生活を送るグループホームなど計14施設を抱える法人の運営方針の大転換を内外に示すためだった。

■ ■ ■

 「社会福祉法人の多くはこれまで『障害者のため』と言いながら、障害者を施設の中に囲い込み、社会で活躍する可能性を奪っていたのではないか」と自省を込める西江嘉彰理事長(60)。「いまは保護重視の立場よりも、一般企業で働きながら地域で自立していけるよう積極的に援護することに注力している」と話す。

 そんな西江理事長には、今でも思い出すと心が痛む出来事がある。

 それは10年以上前の職員時代、就労を希望していた40代の男性の申し出を施設側が一方的に却下したことだった。知的障害が重いからというのがその理由。本人の意思を十分にくみ取ることはなかった。

 〈私を働かせてください〉

 男性は何度も何度も自らの思いを手紙に記して訴えてきた。文面はこの1文のみ。それを紙いっぱいに何行にもわたって書き連ねていた。

 男性の両親も、安心できる施設にわが子がとどまることを望んでいたという事情があったものの、その判断は妥当だったのか―。そう自問するたび、「われわれが独善に陥っていたのではないか」と後悔の念で胸を締め付けられるという。

 〈私たち抜きに、私たちのことを決めないで〉という国連の障害者権利条約を日本が批准したのは2014年。障害のあるわが子に安全な居場所を―という親の願いから39年前に生まれた法人も、その理念を尊重することを運営の第一にしている。

■ ■ ■

 「失敗は全くオーケー。どんな課題にも障害者とともに挑み、乗り越えていくことが法人の新たな姿だ」。今月2日にあった「P.P.P.」の入社式で、新入職員10人を前に西江理事長はこう訓示した。

 法人は運営方針の転換に合わせて昨年11月、名称を「ひまわりの会」から変えて再出発した。「P.P.P.」は「Powered by Party Participation」の略で、「関わる全ての人の当事者参加を原動力に」を意味する。

 絵本に描かれた通り、障害者を施設の中から地域社会に送り出し、障害者が傷ついたときは止まり木となって受け入れ、再起を期す―。そんな施設を目指して新たな挑戦が始まっている。

 国連の障害者権利条約 障害者の人権や基本的自由、尊厳を保障する目的で2006年に採択され、08年に発効した。「無差別」「平等」「社会への包容」などを原則に就労、政治、教育といった幅広い分野で権利を規定している。日本は必要な国内法の整備に時間がかかり、発効から6年後の批准となった。17年11月現在で175カ国が批准している。
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