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「サッカーコラム」サイズの違う靴を選んだ日本サッカー協会 「ハリル」というブランドに罪はない

 2017年8月28日、オーストラリア戦前の練習で、言葉を交わすサッカー日本代表のハリルホジッチ監督(右)と西野朗氏=さいたま市内

 ハリルホジッチ監督の解任は、以前から十分にあり得ることだと思っていた。しかし、ワールドカップ(W杯)ロシア大会までの残り期間がなくなってくることで、―不満は残るものの―解任の可能性は少なくなっているのだろうと思っていた。だから、4月9日に日本サッカー協会が同監督の解任を発表したことには、その内容ではなく、時期という意味で驚かされた。

 優れた指導者ならば、どのようなチームであっても結果を残せるか。そう問われると難しいものがあるのかなと思う。もちろん、どのようなチームで指揮を執ってもタイトルを取る監督はいる。現在はマンチェスターシティ(イングランド)を率いるグラウディオラなどはその意味で世界の頂点に立つ指導者だろう。ただ、彼は常に自分が求める最高の選手を自在に手に入れることができた。FCバルセロナ(スペイン)、FCバイエルン(ドイツ)、そしてマンチェスター・シティ。いずれも、豊富な資金力を誇る世界に冠たるメガ・クラブばかりだ。そんなクラブだからこそ、“ペップ”の手腕が生かされたのだとも考えられる。

 だが、大半の監督は現有戦力でチームを作っていく役割を課される。当然、選手の質にはバラツキがある。そんな選手たちをどう組み合わせ、どのような戦術で用いれば最もいい成果を残せるか。選手たちの能力を存分に引き出すことができる力量の差が、名監督とそうでない監督を分けるのだろう。

 4年前のW杯ブラジル大会でハリルホジッチが率いたアルジェリア代表は、決勝トーナメント1回戦で優勝したドイツと対決。延長戦まで追い詰める大善戦を繰り広げたチームを作り上げたハリルホジッチは世界に誇れる実績を残した。とは言え、デュエルを前面に押し出した堅守速攻の戦術は、どのチームにでも当てはまるものではない。特にフィジカルで劣る日本人には、取り組む価値はあったものの、合わないというのは早い段階で分かっていただろう。日本サッカー協会は、それに目をつむっていたのではないだろうか。もっと早い段階でハリルホジッチと戦術面での擦り合わせをしていれば、今回のような不幸な結末を迎えなくてもよかったのだと思う。

 複数の戦術を柔軟に使いこなす監督は、そういるものではない。特にW杯を託されるレベルの監督は、自分の確固たる戦い方を持ち、それゆえプライドも高い。ハリルホジッチと同じく、フランス語をまくしたてたトルシエを思い出せばいい。当時の日本サッカー協会幹部にはトルシエの人格を嫌う人が多かったが、結果的に彼の代名詞ともいえる戦術「フラットスリー」は、日本人選手にフィットした。トルシエの存在なしに、日本は地元でのW杯でベスト16の成果を収めることはできなかっただろう。

 それを考えれば、今回のいきさつは必ずしもハリルホジッチだけに責任を押し付けていいものではない。W杯レベルの監督は、いわば「高級ブランドの靴」のようなものだ。それをJFAは買ったわけだが、家に帰っていざ、足を通してみるとサイズが合わなくて靴ズレができてしまった。常識で考えれば、ブランドの靴自体に非があるはずはない。問題があるのは、その靴を選んで買った方だと考えるのが当然だろう。

 チームが保有する選手で、どのようなサッカーを行うのか。チームのスタイルをどの方向性に導いていくのか。長期的視野に立ってプロジェクトを計画するのはフロントだ。なぜならいつ契約を切られるかもしれない現場のスタッフは、シーズンのなかでの展望は持つだろうが、基本的に目の前の勝ち負けにこだわっていかなければいけないからだ。

 それゆえ、知名度や過去の実績だけにとらわれずに、自チームに合った監督や選手を見極める能力がフロントには必要となる。フロントに優秀なスタッフを持つことは、優秀な監督を招く以上の価値があるのかもしれない。J1鹿島はその最たる成功例だろう。

 今季のJ1に目を移しても、フロントの目利きのよさで予想以上の効果を挙げチームがある。第6節終了時点で、無敗の首位を走る広島だ。昨シーズン、ぎりぎりの15位でJ1に残留したチームがこれほどまえに大進撃することを予想した人は少なかったのではないだろうか。

 シーズン前、広島の監督が発表されたときに、感想としては懐疑的だった。なぜならFC東京時代の城福浩監督が、シーズン半ばでチームを去った場面を2度にわたって直接目撃していたからだ。だが、現在の結果を見れば謝らないわけにはいけない。1986年のW杯メキシコ大会で優勝したアルゼンチンの監督に贈られた「ペルドン(ごめんなさい)、ビラルド」ならぬ「ペルドン、城福」だ。

 城福監督は広島で指揮を執ることに「FC東京とは違い、とてもやりやすい」と話しているという。ある意味で都会的だが、泥臭く戦うことに対して物足りなさを感じたFC東京。対して3度のリーグ制覇を経験して、厳しさを知る広島との違いがあるのかもしれない。その城福スタイルが自チームに合うと見抜いた広島のフロントも、また素晴らしい。

 言うまでもなく、日本サッカーは危機的状況にある。だからこそ、日本サッカー協会に求めたい。場当たり的ではなく、将来のチーム像までも的確に見通せる能力を備えた強化部門の整備を。なぜなら、同協会の技術委員会にどういう人を選ぶかは、どの人を会長に選ぶよりもはるかに重要だからだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続。
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