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公共交通の維持は地域が奮起を  名古屋大大学院教授・加藤博和氏が提言

加藤博和氏

 8日、岡山県の両備ホールディングスグループのバス78路線のうち31路線を廃止対象とする衝撃的な内容が発表された。実施されれば、身近なバス路線が一気に消えていく異常事態だ。地域公共交通研究の最前線に立つ加藤博和・名古屋大大学院教授は、こうした結果を招くに至った公共交通維持に対する自治体の姿勢を厳しく指弾している。加藤氏の提言は次の通り。

    ◇

 2012年10月12日、岡山県西部と福山市をエリアにバスを運行する井笠鉄道が経営破綻したという驚愕(きょうがく)の一報を聞いてから5年が過ぎた。即日運行停止となってもおかしくなかったのに、関係者の献身的な尽力で運行が途切れることなく、新会社による運営に移行できた。奇跡といってよい。しかし、地域の皆さんは5年たった今でもそれを「有り難い」と感じているだろうか?

 鉄道・バス・タクシー・定期船といった公共交通は「有り難い」つまり「有ることが難しい」存在となった。大都市以外では黒字運営なんて夢のまた夢。公的補助がないと、とても維持できなくなっている。しかし、自家用車が自由に使えない人はいるし、運転免許があっても酒を飲めば途端にどこにも行けなくなるという窮屈な社会で本当にいいのだろうか?

 将来の社会を担う高校生もそういった移動制約者に当たる。公共交通が貧弱で、通学不可能もしくは困難な地域に住む高校生が、卒業後その地域に残る、あるいは戻ることはめったにない。公共交通不便地域では、人口がどんどん流出してしまう傾向にある。むろん、域外からの来訪も容易でない。そんな地域が急速な人口減少・高齢化の中で残っていけるとは考えられない。その意味で公共交通は、地域の命綱と言えるだろう。

 旧井笠鉄道の経営破綻によって、その命綱が「有り難い」と認識できた。命綱を切らないための要諦はただ一つ。地域が「一所懸命」になることだ。つまり、公共交通に関わるさまざまな人々が危機的状況を認識し、維持改善に自分たちが役割を果たす必要性を自覚し、連携して思いを一つに取り組む。一所(すなわち地域)が懸命(すなわち主体的)に取り組むことで、地域に合った公共交通が実現できる。

 現在の井笠地域のバス路線はどうか。利用者数の減少には歯止めがかかっていないし、自治体の取り組みも私から見れば緩慢である。岡山県内の他地域でも、路線網や便数の維持が困難となる地域が続出している。

 一方で、岡山市内では、競合参入や運賃値下げなどの混乱がある。これらは、地域として公共交通に何を期待し、そのためにどのようなサービスが必要かを「一所懸命」話し合い、計画をつくり、実行することで回避できるし、その動きを支援するさまざまな制度も整備されてきた。

 広島都市圏など、改善が進む地域も出てきている。にもかかわらず、岡山県内の公共交通がこのような体たらくなのは、現行法で公共交通の維持改善を主体的に取り組む努力義務を課せられている自治体の「認識」「自覚」そして「覚悟」が弱いからではないか。

 公共交通が満足に使えない地域は滅びる。そして、公共交通は好き勝手に任せていたら滅びる。自治体が中心となり、交通事業者と意思疎通を図り、地域のフルメンバーで公共交通を「一所懸命」にマネジメントする体制づくりが急務である。

 及ばずながら私も、井笠地域で立ち上がった「市民に寄り添う公共交通プロジェクト」のリーダーとなって改善に取り組んでいる。しかし主役は地域自身である。公共交通を、そして地域を持続可能とするため、奮起を促したい。

 (1月14日付山陽新聞朝刊に掲載)

  ◇

 かとう・ひろかず 1970年、岐阜県多治見市生まれ。名古屋大学大学院工学研究科博士後期課程修了。低炭素で住みやすい都市やそれを支える交通システムの実現について研究。全国各地の公共交通の再生に取り組み、2016年8月に井笠バスカンパニー相談役に就任。国土交通省の交通政策審議会委員などを務めている。
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