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共感力を磨け(上) 最強のクリスマスソングについて考えたこと

出張が多い中、ホテルのイルミに癒されるのはどうしてなのでしょうか? なぜか綺麗なものに人は心動かされますね=徳島のホテル

 2017年もあと残すところ数日となりました。街はクリスマスから年越しの装いに変わろうとしています。今回は上、下に分けて私たちの生活や他者との関わりをより豊かにするためには何が必要なのか、新年2018年をより素晴らしいものにするためには今何が必要なのかという少し大きな命題について、「共感(empathy)」というキーワードでつづっていきます。

 共感の定義は複雑で曖昧なものなのですが、広辞苑によると、共感とは「他人の体験する感情や心的状態、あるいは人の主張などを、自分も全く同じように感じたり理解したりすること」とあります。感動や同情に近いものですが、心理学や社会学、認知学ではより専門的に機能によって区別していて、共感は認知的共感と、情動的共感に分けられるとしています。専門的な説明は後ほどにして、初めは一般的に私たちが「共感」という言葉に持っているイメージを中心につづっていきます。あの歌に共感した。その人の生き方に共感したなど、通常よく私たちは何気なく使っている共感という言葉ですが、私たちの社会的なインタラクション(相互作用)において極めて重要な役割を果たしているだろうということはなんとなくは理解できるのではないでしょうか。

 今年のクリスマスにアメリカの研究者が、史上最もハッピーになれるクリスマスソングというものを科学的に研究し曲を製作したと発表しました。マサチューセッツ州にあるボストン音楽院のジョー・ベネット博士が発表した「Love's Not Just For Christmas」という曲です。興味がある方は、動画投稿サイト・YouTubeで聞いてみてください。

 ベネット博士自身のウェブサイトで公表している論文によると、今回分析したのは、音楽配信サービスの2016年12月25日の週に最も聴かれた200曲で、うち78曲がクリスマスをテーマにした曲だったそうです。これらを分析したところ、歌詞には「サンタ」「雪」「家」「平和と愛」という言葉が頻繁に登場しており、サビの部分にはソリの鈴の音(シャンシャンシャンシャンというあの音)が使われるのが大事なポイントのようだったようです。さらに、長調でテンポは1分間に115ビート、4分の4拍子がカギだということが分かったそうです。

 2016年のクリスマスによく聞かれていた曲を分析し、そこから共通点を探り出して、最強のクリスマスソングを作ったということなのです。YouTubeには12月4日に公開されていて、私が確認した12月24日には約13万回近く再生されています。とても素敵な曲ですが、科学的な分析によって、ヒット曲の共通点を集め作り出した曲が、誰もがハッピーな気分になれたのか、今後大ヒットとなるかどうかはこれから見守って行かなくては分かりません。

 この手法は、多くのメーカーでも取り入れられていて、ヒット商品の裏には、科学的分析やマーケティング手法が多く取り入れられています。しかし、それらが必ずヒットしているとは限りません。ヒット商品の共通性だけを網羅したら良いというそう単純なものではなさそうです。今回紹介したジョー・ベネット博士の曲に対しても限界が指摘されています。国が違ったり、宗教や言語が違ったりした人にも支持されるのかと。日本のヒット曲がアメリカでヒットするとは限らないし、同じ言語で、バックグラウンドが近いアメリカとイギリスでさえ、ヒット曲には違いがあります。こうすれば、必ずヒットするという公式を発見できれば億万長者も夢ではなくなりますが、AIの時代にはもしかしたら夢ではなくなるかもしれませんね。ただ、全てが科学的に、公式通りになったら少し味気なくもありますね。

 例えば、世界共通のヒット曲というのは、より多くの人の共感を集めた曲ということになります。共感を感動に置き換えてもいいかもしれません。では、どうして人は感動し、涙を流し、そのことをきっかけに行動しようとまで思うのでしょうか。以前少し書きましたが、私が命名した石川遼選手の「ハニカミ王子」という言葉はどうして多くに人に支持され、流行語大賞になったのでしょうか。それも「ハニカミ王子」という言葉や、それを生み出す要因になった当時の石川遼選手の言動や立ち居振る舞いから、多くの人が共感したからと私は思っていました。では、その共感という感情はどこから来るのか。そんな疑問から、一昨年、京都大学で聴講生として1年間認知科学のゼミに参加させてもらったのです。

 30年近くテレビ業界にいると、視聴率を左右するものはなんなのか。人気のあるタレントさんの共通点はどこにあるのか。そんな疑問を解明するためにもと認知科学の世界を少しだけのぞかせてもらったのです。もし、そこに公式があるとすれば、私が出演する番組は全て視聴率1位となるのではないか。1位でなくても、より多くの人に見てもらえるのではないか。テレビを見ている人全員を幸せな気分にしてあげられるのではないか。さらには、放送を通して世界から貧困や紛争をなくすことができるのではないか。そんな思いで京都大学で研究することにしたのです。

 今回ご紹介した史上最もハッピーになれるというクリスマスソングも、言い換えれば、より多くの人をハッピーにしたいという素晴らしい思いからの研究成果なんですね。ただ、クリスマスソングに期待する最大公約数を組み合わせただけで、ハッピーという概念も国や人によっても違いがあるために一概には世界中の人が曲を聴いてハッピーになれるとは言えないかもしれませんね。それでも、人種や国、言語を超えて人間には共通して「共感」できるハートがあることは間違いがありません。共感には認知的共感と情動的共感があると書きました。今回のキーワードの「共感力を磨け」とは二つある機能の一つである「認知的共感力を磨け」について(下)でつづっていきます。

 1年間ゼミで研究させてもらって、まさに一番私が共感したのがこの「認知的共感」なんです。認知的共感とはある意味、スイッチのオンとオフの切り替えがある程度可能なものなんだそうです。詳しくは次回に。

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多賀 公人(たが・きみと) コミュニケーションコンサルタント。瀬戸内海放送でアナウンサー兼プロデューサーとして28年務めた後、ユイ・コミュニケーション・ラボ(株)を設立。企業・団体を対象に映像を使ったコミュニケーション研修トレーナーや、商品PR・ブランド広報戦略のコンサルタントとして活躍中。現在も瀬戸内海放送や山陽放送でキャスター兼コメンテーターとしてレギュラー多数。プロゴルファー石川遼選手の「ハニカミ王子」の名付け親でもある。1963年玉野市生まれ。

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