文字

無戸籍問題 子どもの権利守る対策を

 何らかの事情で出生届が出されず、「無戸籍」のまま暮らしている人がいる。まずはその現実に目を向ける必要があるだろう。

 法務省は2014年から無戸籍者の調査を始め、先月10日現在で719人を把握している。ただ、調査は市町村に相談した人の集計であり、支援団体は実際には1万人以上いると推計している。

 戸籍がないと何が起きるのか。基本的に住民票もないため、市町村から「就学通知」が届かず、義務教育が受けられていない場合がある。健康保険証もなく、病院にかかれば医療費は自己負担になる。成人しても身分を証明するものがないため、就職も困難を極めるという。

 無戸籍となる大きな要因は民法の規定にあると指摘されている。妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子、離婚から300日以内に生まれた子も前夫の子と推定すると定めている。この父子関係を覆す「嫡出否認」の訴えを起こせるのは夫の側に限られる。

 神戸市に住む60代の女性は約30年前、夫の暴力から逃げて別居し、離婚が成立する前に別の男性との間に娘を産んだ。男性の子として出生届を提出したが受理されず、嫡出否認の手続きも夫との接触を恐れて断念したため、娘は無戸籍となり、娘が産んだ孫2人も無戸籍になったという。

 女性は嫡出否認の訴えを妻や子の側からも起こせれば、無戸籍は避けられたとして国に損害賠償を求めていた。先月の神戸地裁の判決では、民法の規定自体は「子どもの身分の安定を保つもので、合理性がある」との判断を示し、女性側の訴えを退けた。

 ただし、判決では、子どもが無戸籍となるのを防ぐため、一定の要件のもとで妻の側にも嫡出否認の権利を認めることは「選択肢の一つ」と指摘した。夫の暴力から逃げる妻を保護する法整備の必要性にも言及した。

 判決を受け、上川陽子法相は嫡出否認の規定について「国民的な議論の動向を踏まえながら検討する必要がある」との考えを示している。

 対策として、専門家からは妻の側にも嫡出否認の訴えを認める民法改正をはじめ、父親の欄が空白でも出生届を受理する案なども出ている。親にどんな事情があるにせよ、生まれてくる子が無戸籍という不利益を受けるのはあまりに不条理だ。子どもの権利を最優先に、国会は速やかに対策を講じるべきである。

 無戸籍状態を解消するには裁判などを経て戸籍を取得する必要がある。支援団体によると、かつては市町村や弁護士会の中でも理解が乏しく、無戸籍者が相談しても十分に対応されない場合もあったという。法務省は先月、各法務局に対して法テラスや弁護士会と連携した協議会を設け、支援するよう指示した。関係者が問題解決への認識を共有し、声を上げられなかった人々の救済を急ぎたい。

【社説】の最新記事

ページトップへ

ページトップへ

facebook twitter rss

▼山陽新聞社運営サイト
さんデジタウンナビ | 岡山の医療健康ガイド | マイベストプロ岡山 | 47CLUB | さん太クラブ | おかやまリフォームWEB | LaLa Okayama
山陽新聞カルチャープラザ | 建てる倶楽部 | 山陽新聞進学ガイド | 山陽新聞プレミアム倶楽部 | まいられぇ岡山 | 囲碁サロン
▼関連サイト
47NEWS | 今日のニッポン
掲載の記事・写真及び、図版などの無断転記を禁じます。すべての著作権は山陽新聞社、共同通信社、寄稿者に帰属します。

Copyright © The Sanyo Shimbun. All Rights Reserved.