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丹下健三の危機遺産 香川で見られる名建築

21世紀の現在でも異彩を放つ香川県立体育館

香川県立体育館の正面玄関と大きく張り出た屋根の部分。ハニカム構造で強度を増し、デザインも美しくなっている

丹下氏が40歳代で建築した香川県庁舎(東館)。日本の近代建築20選に選定された名建築だ

香川県庁舎1階のホール。画面右に見える壁が猪熊弦一郎が手がけたモニュメント「和敬清寂」

 今から25年ほど前の11月にフリーカメラマンになったのですが、その年の暮れにはイタリアにいました。なぜかというと、建築写真を撮りたかったからです。ご存知のとおり、イタリアは世界遺産の建築だらけです。1カ月間ですが、ローマとフィレンツェをウロウロしました。最近はスポーツ写真が多く建築写真はごぶさたですが、たまに撮る機会があるとワクワクしてきます。

 さて先日、インターネットのニュースで気になるモノを見つけました。「注目画像」とでもいうのでしょうか? 芸能人やスポーツ写真の中に、奇抜な建築があったのです。クリックしてみると「危機遺産」(ニューヨークにあるワールド・モニュメント財団が認定)という内容で、この建物が消滅の危機に瀕するものだとわかりました。この建物は丹下健三(1913-2005)作の「香川県立体育館」でした。

 高松競輪場の近くにある体育館は、やはり異彩を放っていました。遠くの道路からでも船首の様な体育館西面が他の建物から突き出ているのが見えました。1964年に竣工された体育館は、まるで大きな船です! 私見ですが、当時の丹下健三は国立代々木競技場の体育館や東京カテドラル聖マリア大聖堂のように、屋根や外壁をネジったり、反らしたりするイメージがあります。ネットで調べると、この三つの建物はすべて竣工年が同じでした。ただ、香川県立体育館の反りだけは、コンクリートで行われています。金属の板を張り巡らせて反りを造るのと違い、コンクリートで反らすのは大変です。コンクリートは流し込むために型枠を作らないといけません。金属板でも大変でしようが、コンクリートの香川県立体育館の反りは別格のすごさがあります。

 そんな名建築ですが、3年前に使用終了となり今は中に入れません。巨大なモニュメントとして異彩をさらすだけになっています。屋根が低いので、上級者レベルの球技は難しいのと耐震基準をクリアできないのが、使用終了の理由と思われます。おそらく解体も大変な費用でしょう。アスベストが見つかれば解体費用も膨大になります。というわけで、朽ちていくままになるのでは? という懸念が危機遺産につながりました。観覧料を徴収しつつ建築遺産として公開すれば、今の状態より良いのではないか? と現地で思いました。

 さて、丹下健三は香川県庁舎(現在の東館)も造っています。これは同氏初期の傑作と言われています。前出の建物より6年ほど前に竣工しています。こちらは直方体ですが、随所に凝った部位があります。自由な平面や水平連続窓など、ル・コルビュジェが提唱した工法に基づいていました。簡単に言えば壁で建物を支えず、柱で支えることにより、壁は外気を遮断するだけの部位になる。ということは、壁でなくても窓で覆えるようになります。今なら当たり前ですが、約60年前のことです。とんでもなく斬新な建築が、東京でなく四国にできたのです。

 最後に、なぜ若き丹下健三が県庁舎を任されたのかというと、当時の金子正則香川県知事(旧制丸亀中学出身 1907-1996)が同郷の洋画家・猪熊弦一郎氏(同中出身 1902-1992)から紹介を受けたのが若き丹下健三だったのです。知事は新進気鋭の建築家の人柄や理念に共感したと伝えられ、この大事業が成功したのです。見学者が多いのか、1階ホールには県庁舎建築を詳しく書いたパンフレットが置かれています。そして目を見張るのが、県庁建設の立役者、猪熊弦一郎の「和敬清寂」と呼ばれる巨大なモチーフです。偉大な建築家と芸術家のコラボです。有難いことに写真撮影も自由です。若き丹下健三の才能を見抜いた金子知事と猪熊弦一郎。先見の明があればこそ完成した名建物、うどんだけでなく香川の見所として、皆さんぜひ加えてください。

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蜂谷秀人(はちや ひでと)フリーランスカメラマン。ファジアーノ岡山オフィシャルカメラマン、日本写真家協会会員。1985年、日本大学芸術学部写真学科卒業後、山陽新聞社入社。編集局写真部を皮切りに夕刊編集部、家庭レジャー部記者を経て1995年に独立。1962年岡山市生まれ。
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