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大切なのは「心のつながり」

毎週、瀬戸大橋を渡って単身赴任先の徳島に戻る筆者。離れていても、心は岡山で暮らす家族とつながっている

 徳島での単身赴任生活を始めて1年半が過ぎようとしています。事情を話すと、「何で?」「大丈夫なの?」「どうして?」と聞かれます。友達から「そろそろ書いてみたら?」と提案されたこともあり、今回は単身赴任生活の後押しとなった理由の一つについて書くことにしました。

 私の専門である心理学では、「母親」を説明するとき、子供を産んだ人を指すとは限りません。「その子供が母親だと感じている人が母親」と説明する場合があります。時には、お父さん、おばあさん、おじいさん、お姉さん。子供の心がそう感じた人が、母親となります。つまり、主観的なものということです。

 「ルネ」という少女が書いた日記を素材にした有名な心理学書があります。このルネには、産み育ててくれた母親がいましたが、隣に座っていても、抱きしめられても、お母さんが遠く感じる、お母さんが心の中にいない-とつづっています。なぜ、そばにいるのにいないのでしょう。

 大人の場合を考えてみましょう。地域で隣に住んでいるけれど、職場で隣に座っているけれど、その人のことを知らない、関係がない、話をしない。何かやり取りするときには近くにいても、E-mailやLINE。こういう場合は、いるけれど、いない一例かもしれません。

 夫婦でも、一緒に住んでいるけれど、ただ住んでいるだけ。家族だけど、下宿のような。昔私の母が「一緒にいて寂しいことが本当に辛いこと」とつぶやいたことがあります。つまり、「いる」けれど「心の中にいない」。そんな状況を専門家としてだけでなく個人としてもたくさん見てきました。

 次は、物理的に距離がある場合です。人と離れてみること、距離があること、不在することによって、人は相手と自分について考えられるようになる機能を持っています。一緒にいるときには不満を漏らしたり、何かしてもらっても当たり前という感覚しかなかったけれど、離れて相手を見ることによって、客観的に判断できるようになったり、相手の気持ちを推測したり、良さに気づいたり、感謝するようになったり。また相手と自分の関係について気づきを得て、自分自身を反省したり。そして、相手が自分にとって大事な存在であることを認識し、互いの成長につながる場合もあります。こうした心の段階を経た場合には、結果として互いに関係を良くする努力をするようになります。

 「夫婦は、家族は一緒でないと」という言葉を耳にすることがありますが、心理学の立場から考えると、部分的には認めながら、述べましたように全てがそうとも言えません。「いること」よりも、何より「心の中にいること=つながっていること」が大切だと回答できます。こうした考え方を学んできたことが単身赴任を決めることができた一つの理由です。

 実際、この1年半の間ですぐにそうなったわけではなく、紆余(うよ)曲折もありましたが、私たち夫婦のつながりは深くなったように感じています。関係性は常に変化するので今後は分かりませんが、仕事を通して、私も夫の仕事を、夫は私のこれまでの家事や育児を理解し合えるようになったと思います。

 とはいえ、いつもそばにいないことで困ることや弊害もあります。日々の生活面でもそうですが、子どもの授業参観にはほとんど参加できません。何より、夫の仕事面で影響があります。これからを考えると、いつまで…ということは常に感じますし、迷いや不安はあります。やれるところまで、どうしてもしてみたいことがあるからという気持ちを含みながら、毎週瀬戸大橋を渡っています。

 子ども学校の先生や夫の職場の皆さま、近所の皆さま、家事のサポートをしてくれる方、その他いろんな方にお世話になりながら生活しています。感謝の言葉しかありません。

  ◇

 小畑千晴(おばた・ちはる)徳島文理大学心理学科准教授。臨床心理士。武庫川女子大学大学院修了後、岡山大学男女共同参画室助教。ドメスティックバイオレンス、摂食障害、女性の両立問題などをテーマに研究を行う。勤務先が徳島のため、岡山市在住の家族とは週末生活を送る。1973年岐阜県生まれ。
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