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上山が誇る「櫨干し景色」 稲刈り後の先人の知恵と文化継承

稲を刈る人、束ねる人、はぜに干していく人。手分けして作業が進みます

稲刈り前の田んぼの様子

1本の稲が100粒以上のお米を実らせます

雨や風で倒れてしまった稲を1株ずつ起こしながらバインダーで稲刈りをします

櫨干しが完成した上山の風景

 NPO法人英田上山棚田団が棚田の再生活動をして10年目の稲刈りが始まりました。上山にはいま、おそらく日本中のどこにもない櫨(はぜ)干しの景色が広がっています。活動開始当初の作付面積は300平方メートルでしたが、いまでは4万平方メートル近くになりました。しかし棚田が再生できるところは、まだまだたくさんあります。

 棚田団ではフクヒカリ(うるち米)と山田錦(酒米)を栽培しています。稲というものは、苗を植えた当初は2、3本の状態ですが、収穫のころになると本数が増え20本前後になります。そして1本の穂には少なくて80粒、多ければ120粒以上のお米が実ります。1株につき約2000粒(100粒/本×20本=約2000粒/株)程度になる計算です。

 最初は2、3粒だったのが、収穫時には約1000倍にもなる作物なのです。その稲1株1株がどれだけ健康的に育っていくかをサポートするのが、お米づくりなのかなと感じています。上山のおじいちゃんたちもお米づくりが始まると毎日、毎日、田んぼを見回ります。

 9月に入るとフクヒカリの収穫が始まります。バインダーと呼ばれる手押しの農業用機械や手作業で、稲を1株ずつ刈り取ります。バインダーで刈り取られたものは、ある程度の大きさになると自動的に麻ヒモで結びます。手作業で刈り取りしたところは1年前から保存しておいた稲わらで結びます。

 刈り取りと並行して、先輩農家さんたちから譲り受けた長さ5~8メートルほどの竿(細長い竹や木)と脚(これも竹や木を2、3本ずつくくってセットにする)を準備します。竿の高さが、地面から肩の高さほどになるように脚を組んでつなげ、結束した稲を二つに分け、穂が下になるように竿に掛けて干します。地方によっては稲掛(いねか)けとか、稲架掛(はさか)けなどいろいろな呼び方がありますが、上山棚田では「櫨干し」と呼んでいます。

 このように稲を収穫後に天日干しすると、お米一粒一粒のアミノ酸や糖の含有量が高くなります。しかも稲を逆さにして穂を下にした状態で干すことで、わらの油分や栄養分、甘みが最下部の米粒へ行き渡り、栄養や旨味(うまみ)が増すとも言われています。良いことがたくさんあるように思える天日干しのお米ですが、何より手間がたくさんかかるため近年はほとんど行われていません。

 収穫してホッとしますが、その後もイノシシやシカが櫨干ししている稲を食べに来ることがあれば、雨や台風が来ると風や水滴がついて櫨脚(はぜあし)へ負担がかかって折れてしまい、「櫨干しが倒れてしまう」こともあります。無事に約2週間天日干しを続けたらお米の含水率が下がり、15%前後になります。さらに乾燥機で15%ほどに均一になるように調節します。

 ここであまり乾燥し過ぎると割れてしまったりすることもあり、お米の品質に著しく影響します。その後、籾摺(もみす)り(お米の籾殻を取り玄米にする)を行い、新米として食べることができるようになります。棚田でのお米づくりは稲を刈り終わった後も、一つ一つの工程を丁寧に行っています。

 日本中どこにでもあった「櫨干しのある景色」ですが、日本中探しても上山棚田ほど広がっているところはないのではないでしょうか。現代において本当に非効率的な棚田でのお米づくりではありますが、やればやるほど日本人が大事にしてきた知恵や文化が詰まっていることに気がつきます。このかけがえのない価値を創り出す農村の暮らしが続いていくように棚田団は活動を続けていきます。

 いま上山棚田では山田錦の稲刈りの真っ最中です。櫨干しの見ごろは10月後半~11月前半になります。上山集楽にお越しの際はコムスに乗って棚田の景色を楽しんでいただけたら幸いです。詳しくはこちらから。



梅谷真慈(うめたに・まさし) 奈良県出身。1986年生まれ。2011年、岡山大学大学院環境学研究科修了後、SNSをきっかけに関わりを持った美作市・上山地区に移住。棚田再生に取り組むNPO法人英田上山棚田団の理事を務めている。棚田団の活動は13年、日本ユネスコ協会連盟による「プロジェクト未来遺産」に登録、16年には農林水産物や景観などを生かした地域活性化の成功事例「ディスカバー 農山漁村(むら)の宝」(内閣官房など主催)に選ばれた。棚田団のホームページ(http://tanadadan.org/)でも発信中。
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