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ソーラー建設に揺れる地元住民 美作や豊島では反対運動、規制の動きも

美作市作東地区で造成工事が進む全国最大規模のメガソーラー(山肌が削られた部分)

岡山県、美作市、開発業者が締結した自然保護協定書と事業開発協定書

瀬戸内海が一望できる豊島のソーラー建設予定地

豊島のソーラー建設予定地

 太陽光に輝く銀色のパネルの群れ。住宅の屋根、山、池、ゴルフ場…。どこに行っても太陽光発電(ソーラー)施設を見ない風景はないほどだ。国が進める再生可能エネルギー普及を追い風に、ソーラー事業がビジネスとして定着している。その半面、環境保全や安全性を巡り、地域住民による反対運動が起きているケースが多く、岡山、香川県も例外ではない。岡山県北部の美作市では全国最大規模のメガソーラーの建設が着工。瀬戸内海に浮かぶ豊島(香川県土庄町)では2件のソーラー計画が明らかになり、地元で反対の声が上がる中で事業が進む。住民を巻き込んだソーラー騒動から見えてくる課題を探った。

 JR姫新線美作土居駅からほど近い美作市作東地区。山土が削り取られ造成工事が急ピッチで進められている。メガソーラー開発の大手、パシフィコ・エナジー作東合同会社(東京)が今年5月に着工した発電出力257.7MW(メガワット)の国内最大級のメガソーラーだ。2019年10月に稼働、全量を中国電力に売電する。同グループはすでに同市内に42MWの美作武蔵メガソーラーを稼働、県内では久米南町(32.3MW)を加えて3カ所目のメガソーラーとなる。

 地域住民の大半が反対でも着工
 
 作東地区のメガソーラー計画は昨年、突然に開発計画が浮上。造成に伴う環境破壊や景観に大きな影響があるとして、地域住民の大半が反対を表明した。同年春には周辺の土居、竹田、角南、白水、田渕の5地区でそれぞれ地区総会が開かれ、5地区のうち賛成意見が多い田渕地区を除き、あとの4地区は基本的には反対の意向を表明した(土居地区の一部は賛成)。白水地区長の井口政則さん(63)は「昨年の白水地区総会ではほぼ全員が反対だった。その結果は県、市にも伝えていた。それがどうして住民の意思を無視して工事が始まったのか」と厳しい表情。白水地区は84世帯あり、うち30世帯余りが開発地域に近接している。一帯は2009年の台風9号で家屋浸水の被害が出たところ。井口さんは「メガソーラーは森林を伐採し水脈にも影響が出る恐れがある。台風災害を経験している住民は自然環境の破壊を一番恐れている」と懸念する。

 地元関係者の話によるメガソーラー建設着工に至るまでの白水地区の動きは次の通り。

 <16年3月 白水地区総会を開催。メガソーラー建設に対する反対方針を決める▽同年5月 反対の意見書を美作市に提出。これに対し市は「市に事業中止の権限はない。許認可権は県にある」と回答▽同年6月 県から地元に意見打診があり、白水地区としては反対の意向を伝える▽同年8月 市が「地元に反対がある限り、市と事業者の協定は結べない」と県に伝える。県からは「大きな問題がない限り、県にも事業を中止させる根拠がない。周辺住民と十分に協議し事業者との間で協定を結ぶよう」指示があったという▽同年12月 定例市議会で市執行部は重ねて「地元に反対がある限り、市と事業者との間で事業開発協定は結ばない」と答弁▽同(16日) 県、市、業者との間で開発に伴う自然保護協定を締結▽同(26日) 市と事業者が事業開発協定を締結▽17年2月 周辺住民約1300人の反対署名を集め、県に建設中止を陳情▽同年5月メガソーラー建設に着工>

 井口さんによると、事業開発協定と自然保護協定の締結の事実は地元に知らされておらず、今年2月、県に反対陳情に行って初めて事実が判明。事業開発協定と自然保護協定の締結は、事実上の建設のゴーサインとなるだけに、地元住民は行政に不信感を抱いたという。事業開発協定と自然保護協定が締結された件について、美作市企画振興部企画情報課の子守正人係長は「県土保全条例、森林法などの規制をクリアすれば市が開発事業をストップさせる強制力はない。その前に地元にとって有利な条件を取り決めるため協定を結んだ」と説明する。事業者は建設工事に着工した現在も地域住民を対象に事業説明会を開催、もしくは開催を申し入れているという。

 島にはソーラーも産廃も持ち込ませない

 玉野市宇野港から高速船に乗って約20分、瀬戸内海の豊島(香川県小豆郡土庄町)に着く。小豆島に近く周囲19.8キロ、面積14.4平方キロ、人口約900人の小さな島だが、最近は瀬戸内国際芸術祭の舞台として、島に常設された横尾忠則の作品を集めた豊島横尾館や、豊島美術館を訪れる海外からの観光客も多い。瀬戸内海国立公園に位置するこの島で、島外資本による2件のソーラー建設計画が浮上している。

 ソーラーの予定地はいずれも唐櫃(からと)地区の同島東海岸付近にあり、小豆島など瀬戸の島々が一望できる景勝地。計画ではいずれも発電出力が750kW(キロワット)で、互いの距離は東西500メートルも離れていない。このうち広島県内の業者が予定している事業計画についての住民説明会が9月15日、島民約120人が参加して開かれた。それによると5000~6000平方メートルの敷地で11月から設備の環境整備工事に着工し、来年2月にはソーラーパネル約3600枚の発電施設を試験稼動させるという。同事業者はすでに経済産業省から事業認定を受け、中国電力との間で売電にともなう接続契約も結んでいる。豊島自治連合会顧問の山本彰治さんは「昔ながらの素朴な瀬戸の風景と現代アートがうまく調和し、島には多くの観光客が訪れるようになった。そこに光り輝くパネル群が出現することは島の死活問題」と計画に反発する。

 広島県内の事業者の計画が表面化したのは、2015年末から翌年初めにかけて唐櫃地区栄山(えやま)で約1.2ヘクタールの造成工事が行われたことが端緒。これを受け豊島自治連合会は島民の定住成人人口の95%にあたる738人の反対署名を集め、今年5月12日に土庄町と中電に、同月30日には県に事業中止を陳情、環境省と経済産業省にも陳情団を送った。しかし、結果的には11月に工事が着工されることになり、島民の反対運動は大きな壁に直面している。

 豊島は1975年からの民間業者による産業廃棄物の不法投棄が行われ、島民は島の自然を取り戻すため、40年余にわたって産廃撤去運動を展開してきた。この経験から島民の間には環境破壊に対するアレルギーが強く、かつて島の北側の虻山(あぶやま)で島外資本によるメガソーラー計画が発覚した時も、住民が一丸となって反対運動を展開、2015年5月に計画中止に追い込んだ経緯がある。豊島自治連合会会長の三宅忠治さん(70)は「ソーラーも産廃場も県外資本によるビジネス。自然が豊かな島にふさわしくないし、持ち込んでもらいたくない。ソーラーは一つできればその後二つ、三つと歯止めが効かなくなる。美しい島の風景を守るため、今後も反対運動は続けていきたい」という。

 豊島は国立公園の瀬戸内海に位置するため、一定規模以上の開発行為は、自然公園法、森林法、土庄町景観条例などで厳しい規制を受ける。特に全国的に森林面積が少ない香川県は、緑化推進を目的に「みどり豊かでうるおいのある県土条例」(みどりの条例)を設置。0.1ヘクタール以上の森林、またはそのほか1ヘクタール以上の開発面積の場合は、事業計画の県への届け出と事前協議を義務づけている。しかし、いずれの規制も現状ではソーラー事業に対する強制力はない。県みどりの保全課は「ソーラーの開発業者からは正式な事業計画の届けは出されていない」としたうえで、「詳しい計画が分からないので、現状でははっきりしたことは言えないが、開発予定地域は昭和40(1965)年代初めに業者から森林からの用途変更が出されていると聞いている。そうなるとみどりの条例(0.1ヘクタール以上の森林開発)や県の森林法に抵触しない可能性はある」という。豊島自治連合会メンバーの石井亨さんは「当時の業者の開発はいったん中断しているので、あらためて用途変更が必要。今は雑草地になっているのだから、みどりの条例や森林法が適用されるべきだ」と反論する。同連合会会長の三宅さんも「香川県は他県に比べて自然環境、緑化保全に関する規制が厳しいが、国自体が推進しているソーラー事業を規制するのは簡単ではない」と悔しさをにじませる。

 美作市作東地区や香川県豊島で進むソーラー計画について、業者側はそれぞれ「地元の理解と協力を得ながら、事業を推進していく」「(運用終了後に太陽光パネルを放置せずに)撤去して原状回復する」などと地元への配慮を強調している。

 岡山、香川県ではメガソーラー建設に影響力を持つ「県環境影響評価等(環境アセスメント)に関する条例」(対象面積10ヘクタール以上)の対象事業からメガソーラーが除外されている。環境アセスメントは希少動植物など自然環境への影響を調査するため、現状変化に伴う工事や造成に厳しい規制が課せられ、環境保全のための保全措置が求められる。環境アセスメントからメガソーラーを外した理由について両県は「国の環境影響評価法でも対象から除外している」「ガス、排水、騒音等による影響は生じない」「メガソーラーの早期導入拡大をはかる」ためとしている。岡山県自然環境課は「県森林法や県土保全条例である程度はふるいにかかり、さらに環境保護協定などで希少種の動植物の保護に関する対策を講じることで、環境問題や安全性についての一定の規制は可能」と説明する。しかし、環境アセスメントの無力化が、全国で無秩序なメガソーラーブームに拍車をかけたことは否めない。

 山形、大分県では環境アセスメント条例で規制へ

 現行の規制枠では対応できないケースが増え、全国では独自の規制策を打ち出す自治体が増えている。メガソーラー(出力200メガワット、事業面積620ヘクタール)建設計画が持ち上がっている山形県飯豊町では計画エリアに貴重な水源があり、森林伐採で地滑りの危険性があるとして、町が事業者に計画中止を事業者に申し入れている。現行の規制枠では中止の強制力がないため、同町は今年3月の町議会で「自然環境と再生可能エネルギー関連事業との調和に関する条例」を可決。太陽光発電事業などで森林を伐採する際は町への届け出と、合意が義務付けられた。山形県でも県環境アセスメント条例の規則を一部改正、これまでは対象外だったメガソーラー事業を調査の対象に加える方向で検討している。同県環境エネルギー部みどり自然課は「年内にも県環境アセスメント条例の規則を改正し、メガソーラーも規制の対象にしたい」という。

 大分県は県内で計画中のメガソーラー建設に対し、住民が中止を求めて提訴。これを受け県は今年3月に敷地面積が20ヘクタールを超えるメガソーラーについては県環境アセスメントの対象とすることにし、来年1月の施行を予定している。県内の名湯で知られる由布市はすでにメガソーラー建設の抑制地域を指定しており、事業者による届け出や説明会開催などを義務化している。このほか全国ではすでに長野県、神戸市、福岡市が環境アセスメントでメガソーラーを対象に加えており、今後、山形県や大分県などに続いて規制強化に乗り出す自治体が増えそうだ。

 蒜山地域の一部ではソーラー開発に歯止め

 一方、岡山県内では市町村で独自の条例を制定し、メガソーラーの建設に歯止めをかける動きが出ている。真庭市が2014年に蒜山上福田の三木ケ原地域の一定エリアに限定してメガソーラーの建設を規制する「自然環境等と再生可能エネルギー発電事業との調和に関する条例」を施行している。同年に千葉県の業者が同地域に建設を計画していたメガソーラーに、三木ケ原自治会や蒜山観光協会などが事業中止を求めたことがきっかけで条例ができた。同条例はエリア内ではすべての太陽光発電施設の建設に市は同意しない―とした上で業者に対し事業中止を求めることができる。エリア外の建設についても、事業区域の面積が5000平方メートル以上のケースは、関係者への説明会の開催、届け出が必要とし、問題がある場合は審査、指導、勧告を行う。それに従わない事業者は会社名を公表することにしている。そのほかに市景観保全条例、蒜山保全条例、森林法など開発面積や景観問題などで多くの規制が掛かる仕組みだ。真庭市都市住宅課では「再生可能エネルギーの確保は国策なのでメガソーラーを頭から拒絶しているわけではない。それより大切なのは豊かな景観や自然を守ること」という。

 岡山県内ではこのほか、岡山市が環境保全条例でソーラーパネルの設置が1ヘクタール以上のメガソーラー開発に届け出を義務付けている。倉敷市は美観地区景観条例で同地区でのメガソーラー事業は対象外としているが、発電施設の架台など工作物は届け出が必要。新庄村は村内全域で開発面積が1000平方メートルを超える場合は、郷土保全条例で届け出が必要で、桜並木で知られるがいせん桜通り地区は、面積と関係なく景観保存条例で届け出が必要。同村産業建設課は「気候が山陰地方に似通って県南に比べると日照時間が少ない。このためソーラー事業の適地でないため、これまでにメガソーラーの建設事例はないし、業者からの開発の打診は今のところない」としている。津山市は景観計画で特定エリアでは届け出を義務付けている。しかし、県内のほとんどの市町村ではメガソーラー開発に関しては「開発事業の調整に関する条例」を適用、一定面積以上の開発行為は届け出を義務付けているが、事業中止などを含め、計画の指導、勧告のケースはほとんど見られない。

 【取材を終えて】無力化した環境アセスメント 開発のツケは住民に

 岡山、香川県は全国的に年間降雨量が少なく、ソーラー建設の適地といわれている。特に岡山県は「晴れの国」をキャッチフレーズに、県外資本によるメガソーラーを積極的に受け入れてきた経緯がある。今年3月に改定した「おかやま新エネルギービジョン」でも2020年度のソーラーの目標電力を、15年度の約4.3倍の42億8300万kWhに設定している。当初県は「メガソーラー設置促進補助金制度」(補助額最高1億円、現在は廃止)まで設け、県、市町村の未利用地を事業者に売却、賃貸する優遇制度を県外に積極的にアピールしてきた。この結果、県は全国でも上位のメガソーラー集積地になっている。岡山、香川両県とも「環境影響評価等(環境アセスメント)に関する条例」の対象事業からもメガソーラーが除外されており、よほど悪質な業者でない限り、住民から反対があっても計画を中止させる決め手はない。

 実は両県を含め全国のほとんどの都道府県が「環境アセスメントに関する条例」(対象面積10ヘクタール以上)の対象からメガソーラーを除外している。国が再生可能エネルギーの推進を目的に環境影響評価法からメガソーラーを除外したのを受け、大半の都道府県が環境アセスメント条例の対象からメガソーラーを外したからだ。この結果、環境アセスメントが無力化し自治体は事業者に対する強制力を失ったといえる。都道府県に許認可権がある森林法や県土保全条例などで、ある程度の規制が可能という指摘もあるが、岡山県をはじめ全国のほとんどの市町村では、事業者が開発申請すればよほどの問題がない限り、許可せざるを得ないというのが実情だ。地元で根強い反対があっても、美作市のように事業者、地元市町村、県が環境保護協定や事業開発協定を結んで事実上の許可を出し、問題の収拾を図るケースは多い。結果的に計画を中止できないなら、地元に有利な条件で手を打とうというわけだ。県内市町村の担当部署は「ソーラー事業は国策で推進しているだけに、メガソーラーの建設申請があれば一応受ける対応をしている。規制強化の新たな条例などもつくりにくい」と口をそろえる。

 ソーラー施設の建設、稼働はFIT(全量固定価格買取制度)価格の下落や各電力会社の買い取り枠の減少で、今後新規の建設ブームは下火になると言われている。しかし、中国電力管内で予定されている太陽光発電の総出力は618万kW(今年9月末現在)で、そのうち43%に当たる267万kWがまだ未稼働。未稼働の施設についてはこれら造成や施設の建設が行われるケースも多く、これからもメガソーラー施設の用地造成や建設をめぐり、地域住民と事業者との間でトラブルが表面化してくる可能性も十分にあり得る。加えて電力会社との売電期間を終え、施設を撤去せずそのまま放置することによる漏電事故や、森林伐採などによる水源の影響や、地滑りなど自然災害の危険性を指摘する声が高まっている。

 過疎の地方自治体はかつて企業誘致に奔走したが、若年層の労働力不足もあって、今は無人で稼動するメガソーラーがかっこうの誘致対象になっている。こうした背景のもとで地域住民とのトラブルが全国で多発している。過熱するメガソーラーブームを受け、経済産業省は今年4月、ソーラー建設に伴う自治体の指導要綱や、事業終了後の設備撤去の遵守などを取り決めた事業計画策定のガイドラインを制定した。この結果、同ガイドラインに違反した場合、事業者に改善命令が出せることになった。しかし、無秩序な開発を規制する強制力はない。原子力発電の抑制からもクリーンな再生可能エネルギーの推進は必要だが、自然環境の保全と災害防止などをまず最優先に考え、地域住民の協力を得る視点は不可欠だ。

 メガソーラーは地元に固定資産税は落としても、住民の雇用はゼロに近く、地域に及ぼす経済波及効果は極めて薄い。一方で開発に伴う山林の伐採跡地の修復には何十年もかかる。そのつけは最終的には住民が負うことになる。「晴れの国」岡山がこの問題にこれからどう対応していくのか。地域住民の声にしっかり耳を傾け、トラブルを未然に防止するための対応策を講じるべきだ。
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