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定年後はキョウイクとキョウヨウ 社会と接点持ち自分の居場所を

88歳の父親と記念撮影

 個人的な話ですが、父が88歳の米寿を迎えました。先日やっとお祝いの会を開くことができました。父は長く中学の美術の教師をしていましたが早期退職し、その後は画家として活動しています。ちょうど岡山県の県展で岡山市長賞を受賞したこともあり、家族でささやかなお祝いをということになったのです。

 父の口癖は「時間が足りない。毎日忙しい」です。70歳からピアノを習い始め、先に亡くなった母に、「お経の代わりにピアノを奏でる」と雑誌のインタビューに答えるなど、少しキザなことも言います。ピアノの発表会にも88歳になっても出演しています。私も少しキザなところがありますが、恥ずかしながら父譲りなのかなと思ってしまいます。

 父を見ていると、花を育て、自分が育てた花を題材に絵を描き、大好きな港にも足しげく通い、港の絵を描く。少人数ですがお弟子さんもいるおかげで、絵画を教え、個展だ展覧会だと言えば、お弟子さんや、元教え子の皆さんが助けに来てくれる。88歳にしては社会に自分の居場所を持って、社会と繋がっている。息子のひいき目かもしれませんが、好きなことをしながらも、世の中に必要とされているように見えるのです。

 2000年にWHO(世界保健機関)が提唱した健康寿命という考え方への関心が高まりました。健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間であると定義されています。何歳まで生きられるかという平均寿命に対して、何歳まで健康でいられるかというのが健康寿命です。父は今のところ毎年、健康寿命を更新していることになります。

 各都道府県の健康寿命と同時に全国平均の健康寿命も公表されています。2010年の健康寿命の全国平均は男性70.42歳、女性73.62歳でした。都道府県別のランキングを見てみると、男性のトップが愛知、女性のトップが静岡でした。愛知は男性1位のみならず、女性の3位にもランクインし、静岡も女性1位に加え男性2位と男女ともにトップクラスの健康寿命でした。ちなみにWHOが2016年に2015年の国別健康寿命を発表しています。世界1位は日本で男女平均で74.9歳。WHOに参加している194の国と地域で日本が世界1位なのです。健康寿命において世界には健康寿命が50歳未満という結果の国があるということも忘れてはいけないことと改めて思いました。

 一昨年、健康寿命で毎年上位にくる静岡県を取材しました。よく緑茶を飲むからという分析もありましたが、静岡県には「ふじ33プログラム」という取り組みがあります。簡単に説明すると運動、食生活、社会参加の3分野に関する取組であって、適度な運動ができる機会を多く作る。食生活を管理し、社会に参加できる方法を地域で見つけ、参加を促すというものです。岡山県なども、静岡に研修に赴き、こういった取り組みを始めています。

 私がなるほどと思ったのは、この中の社会参加です。高齢者の皆さんが社会に居場所を持つための施策です。定年退職しても、行政が再雇用を促し、できる範囲で仕事をする。小さくても、趣味でもいいからサークルや地域のコミュニティーに参加するように地域を挙げて応援する。そうすることで、会社勤めから卒業しても社会との接点や、地域社会の中に自分の居場所や、やりがいを見つけやすくしているのです。静岡県の担当部署の方が、とりわけ言っていたのが、人と関わり、地域と関わることが心理的、身体的にも大切だということが長年の取り組みで分かったということでした。

 定年退職後に問題になるのは、もちろん老後の資金も大切ですが、心のありようだと私は思っています。よく聞く言葉に、燃え尽き症候群があります。やっと会社から自由になったのに、何も手につかない、やる気が出ない、会社という枠組みがなくなることで抜け殻になってしまうことです。40年近く、会社のために働き、定年後に初めて自分の居場所が社会にも家庭にもないことに気づくのです。そうなってからでは遅いのです。ハッピーリタイアメント、素敵なセカンドキャリアを迎えるためには、在職中から趣味や、サークル、コミュニティーでの居場所を確保しておくことが大切なのです。社会や他人に必要とされる、自分の居場所を見つけなくてはいけないのです。

 タイトルの「キョウイクとキョウヨウ」は「教育と教養」ではありません。もちろんそれも大切ですが、「キョウイクは今日行くところがある、キョウヨウは今日用事がある」です。リタイアした後こそ、社会と接点を持って、自分の居場所を見つけることが健康で長生きできる秘訣(ひけつ)なのだと、私は思うのです。実は、この「キョウイクとキョウヨウ」は敬老の日に、イベントに参加していた年配の方に教えてもらったのです。「多賀さん、健康に老後を過ごす秘訣を知っていますか? キョウイクとキョウヨウなんだよ」と。皆さんには今日行くところ、今日の用事はありますか? 「もちろんだよ、忙しくって」とリタイアした後にも言えるようになりたいものですね。ほどほどに。

 私の父は88歳になった今でも、自分のことは自分でします。料理も器用にこなします。まさに健康でありながら年を重ねています。社会に居場所を持って、好きなことをして生きる。それが父が毎年健康寿命を更新し、元気でいられる秘訣なのではないかと思うのです。

 私には絵の才能はありません。父もそれほどすごい画家ではありませんが、好きなことをとことんやりながら、少しですが社会にも必要とされ、地域と接点を持って歳を重ねている。そんな姿が少しだけうらやましく、誇らしくも思う今日この頃なのです。

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多賀 公人(たが・きみと) コミュニケーションコンサルタント。瀬戸内海放送でアナウンサー兼プロデューサーとして28年務めた後、ユイ・コミュニケーション・ラボ(株)を設立。企業・団体を対象に映像を使ったコミュニケーション研修トレーナーや、商品PR・ブランド広報戦略のコンサルタントとして活躍中。現在も瀬戸内海放送や山陽放送でキャスター兼コメンテーターとしてレギュラー多数。プロゴルファー石川遼選手の「ハニカミ王子」の名付け親でもある。1963年玉野市生まれ。

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