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「サッカーコラム」中位チームに許された特権 シーズン終盤のチャレンジが広げる来季の戦術

 FC東京―磐田 後半、競り合うFC東京・東(左)と磐田・山田=味スタ

 優勝争いにも、降格にも関係がない中位のチームによる対戦。リーグ終盤にさしかかったこの時期のJリーグの試合内容には、当たり外れがあるようだ。観客からチケット代を頂いているのだから、選手たちが手(足?)を抜くことはないだろう。当然だが、素晴らしい試合もある。ただ、中位のチームはリスクを冒してでも勝ち点獲得に執着するという気概に欠けるところがある。それだけに、“外れ試合”を観戦にいくと興奮のないまま帰路につかなければならない場合がある。

 9月30日に行われたJ1第28節、FC東京(11位)と磐田(6位)の一戦は、内容を楽しむという点から見れば、正直つまらないものだった。記録では、シュートはともに6本ずつとなっているが、決定的なチャンスは両チームを通して一度だけ。磐田のMF中村俊輔の左CKをFC東京のGK林彰洋がいわゆる“かぶった”状態となったことで、こぼれたボールを林の背後にいた磐田のFW川又堅碁がシュート。これがクロスバーを直撃した前半41分のプレーだけが、ゴールに限りなく近づいた瞬間だった。

 両チームに得点もなく、それに伴う喜びもない0―0の引き分け。それでも、両チームは中位のチームだけがこの時期にできる試みをしていた。それは、来季を見据えた新しいオプション作りのためのテスト。公式戦でこのようなチャレンジができるのは、中位チームの特権だろう。

 試合を前にして、大きなチャレンジに取り組み始めたのは磐田だ。磐田と聞いて誰もが思い描くのは、3―4―3の3バック。それをこの試合では4バックに切り替えていた。4―2―3―1の新たなフォーメーションについて、名波浩監督は「守備については非常にコンパクトにできた」と合格点をつけた。その一方、攻撃に関しては「相手に合わせてなかなかリズムが上がらなかった」とシュートの少ない試合を振り返っていた。

 攻撃がスムーズに展開しなかった理由。それは、テストを兼ねて新たに組み込まれた選手がうまく機能しなかったこともある。2014年以来、3シーズンぶりの磐田復帰となった山田大記だ。2012年にクラブ最年少の23歳でキャプテンを任された元日本代表選手は、ブンデスリーガ2部のカールスルーエから戻ってきてこれが3試合目。先発で出るのはこの試合が復帰後初だった。

 ドイツでは攻撃的MFではなくボランチを務めることが多かった。名波監督も「2列目の空気とか忘れてしまっているので、彼(山田)に伝えたのはリハビリのつもりでリラックスして」との言葉をかけて送り出した。久しぶりに2列目の中央でプレーした山田は「気楽には入れたけど、本当にリハビリみたいになってしまった」と、自らのプレーの不出来を自虐的に語った。

 中村俊輔が現状を「次に進むために、引き出しをちょっとずつ作る」と表現した磐田の取り組み。観客からすれば「シーズン中の公式戦でテストとは何事か」となるのだろう。

 しかし、来季を見据えて戦術の幅を広げるのは、一歩間違えれば翌年の残留争いに巻き込まれかねない中位のチームには不可欠の作業だ。事実、降格から逃れた安心感からか目先の試合をチームの成長につなげられず、翌シーズンに大苦戦しているチームがある。その意味で数字上では優勝の可能性を残すものの現実的にはタイトルが不可能な時点で、この決断をした名波監督の割り切り方には典型的なリアリストとしての指導者像が見える。

 一方のFC東京も安間貴義監督が指揮を執るようになってから変化が出てきた。この試合では3―4―3のボランチに、これまで3トップのサイドで起用されることが多かった東慶悟を起用。その出来について安間監督は「ハマったんじゃないかな。彼には、ありがとうといいたいぐらい頑張った」と評価した。そこには、新布陣に対してある程度の手応えを感じていることがうかがえた。

 しかし、FC東京の場合は磐田とは状況がちょっと違うだろう。安間監督がリーグ戦でチームの指揮を執り始めてから、まだ3試合目。シーズン途中に監督が交代するのは、チームが最悪の状況に陥っていることを意味する。それを考えれば、新監督が手始めにやるべき仕事はチームを通常の姿に引き戻すことになる。

 それにしても豪華だった。古い歌謡曲で例えれば「昔の名前で出ています」かもしれないが、後半25分に永井謙佑と交代してピーター・ウタカが投入された瞬間、FC東京の3トップは歴代のJ1得点王が並んだ。前田遼一、大久保嘉人、そしてウタカ。計6度の得点王に輝くこの3人をもってしても点が取れないのは、チームに何らかの問題があるからだろう。FC東京は早急に、その解決の糸口を見つけ出さなければいけない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続。
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