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次世代に美観地区の資産継承を 倉敷町家トラストの中村さんに聞く

倉敷美観地区の景観の現状と課題を語る中村さん

倉敷町家トラストの事務局となっている町家

美観地区のまちあるき企画の打ち合わせ

 倉敷に足を運んでふと話をしたくなるのは、NPO法人「倉敷町家トラスト」代表理事の中村泰典さんだ。中村さんに会うと、環境、グローバル経済、景観保全、町屋の活用など話題は多岐に及ぶ。初めて会った時、「美観地区だけではなく、倉敷には広いエリアで古い建物がたくさんある」「毎日飲んでいる水が高梁川から来ているならば、その川を大切にするべきだ」「倉敷の夜に明かりを灯すことで生活を見つめる」といったことを語ってくれた。まちづくりの先輩であり、友人としていろいろなことを教えてくれている。筆者の持つ倉敷市のイメージは彼から負うものが多い。

 中村さんは倉敷美観地区で生まれ育ち、一帯に多くの空き家がある現状に気づいた。2006年に倉敷町家トラストを設立。美観地区内で放置されていた空き家に目を付け、企業人らから出資を募り、町家暮らしを体験できる宿泊施設として再生した。その後も、空き家の所有者と借りたい人を仲介するなどして、数多くの再生活用に携わっている。美観地区のまちづくりを語るには欠かせない人物である。

 この美観地区は年間300万人という観光客が訪れ、観光地として十分な成功を収めている。大原美術館や飲食店、写真を撮る場所にも恵まれている。小物を買ってみたり、裏地を歩いてみたりする。整った街並みには電柱もなく、空を見上げたりもする。天領の気質、もしくはまちづくりを支えた人々の先見性。倉敷美観地区は、文化と伝統の中に新しいワクワク感を提供してくれるまちといえる。

 9月下旬、倉敷美観地区で予定しているまちあるき企画を中村さんに相談した。「おー、久しぶり」と再会を喜んだ後に、まちの課題をうかがってみた。中村さんは、大きな経済の流れの中で、暮らしと成長のバランスが急激に変化していると指摘した。それは景観から確かめられると言った。付け加えると、2015年4月1日から倉敷市は、倉敷川畔美観地区周辺眺望保全地区を指定し、美観地区の概ね1キロの眺望の範囲で、高い建物やデザインを規制しようとしている。中村さんの関心をまとめてみると、都市の発展を止めるのが目的ではなく、次世代に可能な限りでまちづくりの資産を残していきたいということであった。中村さんからこのように問いかけられた。

 「倉敷は、70年間まちなみ保存をコツコツやってきた。でも、ただ保存をするのではなくて、私たちが意思を持って保存しようとしないと、大切なものは残っていかない。これからのテーマは、年月が経っていっても若い人々への選択肢を奪わないこと。だから選択肢を変えないまま、継承させたい。つまり、古い町並みを残し続けるのか良いことか、もしくは、新しい建物や店舗を受け入れて変化を受け入れるのかを、今の世代だけで決めてしまわないようにしたい。今はまず、まちの生活を残していこう。変えるにしても、変えないにしても、市民全体で将来へのビジョンを作っていかないと、何も進まないのではないか。ここ10年間で、岡山県内外の企業によって市街地の開発が進み、経済的な圧力からまちは動いている。なりゆきに任せるとよくないから、生活の部分を残して、ローカルルールをしっかり作りたい」

 筆者がまず、このローカルルールという言葉を聞いて思い出したのは、1990年に制定された旧湯布院町の潤いのあるまちづくり条例だ。景観を守るには、国のルール(法)があり、次に住民たちのローカルルール(条例・地域の意思)がある。この条例は、国より厳しい基準を設けることはできないが、開発においてはローカルルールを尊重してほしいという画期的なアプローチを出したものだ。大きな注目を浴びたが、それからも四半世紀がたち、地域の悩みは深まっているようだ。

 中村さんの問いに向き合うと、先輩から後輩に、年配者から若者に、経験や展望を世代間で共有することが不可欠であるように感じられた。閉じこもったまちづくりの思想やビジョンでは、その精神を誰も知ることができないままになってしまう。中村さんは、まちづくりのDNAを若者に伝えようとしているのだ。一方、若者は、中村さんの話を含めて倉敷の現状をどのように感じるのだろうか。それは、是非明らかにしたい。まちあるきのテーマは、しっかり固まった。

 ◇

岩淵 泰(いわぶち・やすし) 岡山大地域総合研究センター(AGORA)助教。都市と大学によるまちづくり活動に取り組む。熊本大学修了(博士:公共政策)。フランス・ボルドー政治学院留学。カリフォルニア大学バークレー校都市地域開発研究所客員研究員を経て現職。1980年生まれ。
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