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「共謀罪」法案 テロ防止に資するのか

 テロ対策の必要性は誰しも否定しない。だからといって、国民に誤った印象を与えたまま押し切れば、必要なテロ対策の議論までゆがめてしまうのではないか。

 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案をめぐる審議が参院に移った。安倍晋三首相は「東京五輪を控え、テロ対策に万全を期すことは開催国の責務」とし、今国会で成立させる方針だ。

 衆院審議では法案への数々の疑問点が積み残された。参院は「熟議の府」として、あらためて議論を尽くす必要がある。論点の一つは、改正案がどれだけテロ防止に資するのかという点であろう。

 「共謀罪」は過去3度廃案になっており、政府は今回、「テロ等準備罪」の呼称を使う。ただし、「テロ等準備罪」という犯罪名があるわけではなく、あくまで共謀罪に代わる政府の呼称だ。当初の法案の条文には「テロ」の文言がなく、国会提出前に与党の指摘で急きょ、加えられた経緯もあった。法案の成立を急ぐため、国民が受け入れやすい“看板”を掲げたという疑念は残ったままだ。

 政府が法改正の根拠としてきたのは、国連の国際組織犯罪防止条約の締結のためだ。しかし、条約は元来、マフィアなどによる経済的な犯罪の撲滅を目指したもので、条約締結で直ちにテロを防げるわけではない。

 一方、日本はテロ防止のための国連の主要な13条約を既に締結し、国内法も整備している。現行法でも「未遂」より前の段階で処罰できる罪は既に66ある。

 改正案は、277の犯罪についてまとめて、計画と準備行為の段階で処罰できるようにするものだ。政府はテロ対策には包括的な改正こそが必要と主張する。衆院の審議で、政府は従来の法律で対応できないケースとして、テロリストが飛行機を乗っ取って高層ビルに突撃させる計画を立て、航空券を予約した場合など複数の事例を挙げた。

 しかし、いずれの事例も野党はハイジャック防止法の予備罪など現行法で対応できると指摘。その後、政府からは説得力のある事例は示されず、議論は深まっていない。

 対象犯罪の277の中には森林法や種の保存法など、テロ対策としては首をかしげるものも含まれる。対象犯罪が広すぎることで、国民生活に対する監視を強め、不当な捜査を招くのではないかとの疑念も生じている。

 共謀罪のある英国で起きた爆発事件をみても、テロ対策が一筋縄ではいかないことは言うまでもない。テロ対策と個人の権利をどう両立させるのか。拙速な議論は後世に禍根を残すことになる。

 きのう参院法務委員会で行われた参考人質疑では、法律の専門家が「共謀罪のある先進国に比べ、日本では人権侵害の歯止めが不十分」と指摘した。熟議を求めたい。

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