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都会と田舎を行き来する生き方 棚田団は“懸け橋”のような存在

再生した棚田で語り合う棚田団のメンバー

耕し手がいなくなり、荒れ果てていた棚田=2007年

荒れ果てた棚田はメンバーらが草刈りなどをして再生させた

やぶに覆われた「いちょう庵」=2007年

現在のいちょう庵。週末はカフェとして営業している

草刈りに汗を流す筆者

 私は、平日は大阪で会社員として勤め、週末には上山で棚田再生活動にいそしんでいる。美作市の上山に通うようになって、今年でもう10年目になろうとしている。初めて上山に来たとき、ほとんどの棚田は草で覆われていた。何枚かの棚田で田植えがされているのを見て、かろうじてここに棚田があることを気づかせるだけだった。そんな状態から英田上山棚田団(以下、棚田団)の活動は始まった。

 耕し手がいなくなった棚田は草が覆い茂り荒れ果てていた。だが、ここに8300枚の棚田が眠っている。しかも、草を刈った後は土を耕して田んぼに戻せる。そう思うと、とにかく草を刈らないといけないと思った。棚田には草だけでなく竹藪(やぶ)も生えていた。手入れする人がいなくなり、伸び放題に生い茂ってどんどん棚田を侵食していた。

 「この竹藪の中には家があったんじゃが、もう住む人もおらんでつぶれとるじゃろなあ」という村人の話を聞いて、棚田団の仲間と竹藪を分け入ってみた。すると家がつぶれずに残っていた。「舌切りすずめ」の話に出てくる「すずめのお宿」とはこういうものかと思った。持ち主の許可を得てこの家を棚田団で再生することにした。竹を一本一本切り倒し、葛(くず)を取り払い、人が入れるように家の周りを整地していった。最後には村のおじいちゃんがパワーショベルを持ってきて車が入れる道をつけてくれた。

 上山には、よそ者を受け入れてくれる度量のあるおじいちゃん、おばあちゃんがいたのがありがたかった。この家の名を近くに生えている大きな銀杏(いちょう)の木にあやかって「いちょう庵」と名付けた。今では古民家カフェとして交流スペースに生まれ変わっている。

「楽しい事は正しい事」

 棚田団の活動には夢があった。自分が食べる食物を仲間たちと育てたい。自分の居場所を仲間たちと築きたい。棚田団でやりたいことを仲間でよく語り合った。これが草刈り機の操作方法や安全な竹の切り方など、作業内容から取り組んでいたら、棚田団の活動は続いていなかっただろう。私たちは「楽しい事は正しい事」をモットーにしている。物事は夢を持って取り組まないと楽しくない。だが、この後には「楽しい事は楽な事ではない」と続く。物事をやり遂げるのは楽なことだけでは済まない。辛いことがあっても夢があればこそ乗り越えられる。夢があったからこそ自分自身10年も上山に通い続けているし、若い世代の上山への移住者が増えてきているのだと思う。

 最近の棚田団の夢は、この若い世代のがんばりによってさらに大きく広がっている。村の高齢化でやむなく廃れてしまっていた神社での夏祭りや、江戸時代から続く獅子舞の踊りなどを復活させて村の文化継承に取り組んだ。また、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金とも地域活性化プロジェクトを進めている。中山間地での交通難民対策として、超小型モビリティの導入モデルの確立を目指している。

活動支える「多様性」

 この夢の広がりを支えているのは、さまざまな職種の人たちが集まる棚田団の多様性だ。美作市の地域おこし協力隊として上山に来たメンバーもいれば、会社員、自営業者、行政書士、学生など多種多様なメンバーがそろっている。このバラエティに富んだ経歴それぞれが持つ特技や人脈などのパイプが棚田団の活動を支えている。棚田団という名前には、棚田再生をベースにさまざまなことに挑戦する可能性を込めている。棚田で技術を継承したり、文化を学んだり、あるいは芸術や哲学に挑戦したり、自分の信じた夢に挑戦するのが棚田団なのだ。

 私にとっては週末に上山に通う生活スタイルが当たり前になっている。都会での暮らしと棚田団の活動の両立のおかげで日々楽しく過ごしている。都会と田舎の異なる文化に触れることで、それぞれ当たり前だと思っているものに価値を見出し新たな発見をすることがある。この生活スタイルは自分の人生をより豊かなものにしている。

 都会で暮らす生き方もある。田舎で暮らす生き方もある。私はもうひとつ、両方を行き来する生き方もあるのではないかと思う。棚田団には都会から上山に移住して上山で生業を営むメンバーもいる。一方で都会で暮らしながら、上山に通うメンバーもいる。それが棚田団の魅力でもあるし、活力の源になっている。都会と田舎を行き来する様々な生き方をする人が増えれば、社会はもっと豊かになるはずだ。棚田団は都会と田舎を結ぶ懸け橋としての役割も果たせると思っている。



武吉栄治(たけよし・えいじ)1973年生まれ。大阪府出身。棚田団の立ち上げメンバー。大阪で生活しつつ週末になると上山に通っている。棚田団初期の活動をまとめた『愛だ!上山棚田団-限界集落なんて言わせない!』(吉備人出版)で出版賞「第25回地方出版文化功労賞 奨励賞」を受賞。

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