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『今夜もカネで解決だ』ジェーン・スー著 満たされてはいけない女

 

 他人にもてなされたい夜や週末ってものが、人にはどうもあるように思う。友だちをつかまえて愚痴るのではなく、行きつけの居酒屋で親父と世間話するのでもなく、まったくの赤の他人、こちらの素性をカケラも知らない他人に、優しくしてもらいたい夜が。

 そういうときに飛び込む先が、多くの女にとってはマッサージ店ということになる。見ず知らずの人間が、「凝ってますねえ」「頑張りましたね」と受容してくれ、最後には「こんなに揉みほぐしたのだからもう大丈夫」と笑顔で太鼓判をくれる。そう、私たちはただ揉みほぐされに行くのではない。「もう大丈夫」って言ってもらいに行くのだ。

 コラムニストとして、あるいはラジオ番組のパーソナリティーとして、日々もりもりと働くジェーン・スー。四十路前半の彼女もまた、ほぐされたいときはマッサージ店に行く。本書は各店舗の価格帯ごとに章立てされており、「プチプラ」店から「諭吉」クラスの店までまんべんなく体験。その様子と考察をつづっている。

 受け手はうつぶせなのに、天井いっぱいに広がる「満天の星空(的な明かり)」が自慢のマッサージ店のエピソードや、きれいに除去された足裏の角質を「パルミジャーノ・レッジャーノ」に例えるなど、今日もジェーン・スーはあらゆる面白の種を拾い上げる。けれど興味深いのは、この本はただただそういった種だけを羅列してあるわけではない、という点である。

 腰が痛いからといって、腰を揉めばいいってわけではないのだと彼女は学ぶ。身体だけでなく脳も休まないと、疲れは取れないのだとも。せっかく施術者の腕がいいのに、なっちゃいない店の体制に憤る。指先から伝わってくる施術者の不安を察知し、気づかい、よけいくたびれてしまう。

 この本1冊分のマッサージを受けてもなお、彼女の果てのない旅は続く。揉まれても揉まれても、ジェーン・スーのアンテナは全開で、勝手にいろんな種を拾う。人の機微を読む。白いことも黒いことも拾いたおして、たちまち文章にしてしまう。

 その感受性こそが、彼女のエッセイが愛される所以である。そしてそれを私たちがこれからも読み続けるためには、彼女は決して、満たされてしまってはならないのだ。ほんのちょっと、何かが足りない。常にそんな実感を行く書き手だからこそ、彼女のコラムは輝くのである。

(朝日新聞出版 1300円+税)=小川志津子

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