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諫早開門差し止め 異常事態打開へ糸口探れ

 国営諫早湾干拓事業(長崎県)の潮受け堤防排水門の開門差し止めを、干拓地の営農者らが求めた訴訟で、長崎地裁が開門しないよう国に命じる判決を言い渡した。

 開門差し止めを認めた2013年の仮処分と同じ判断である。逆に、10年には福岡高裁が開門を命じ、判決は確定している。相反する義務を国が負うという異常事態に解決のめどは立たず、混迷の度合いは増すばかりだ。

 事業は、有明海に面した湾の奥を堤防で閉め切り、670ヘクタールの農地を生み出して08年に完工した。漁業者側は潮流が変わってノリや貝などに被害が生じたと主張して開門を求め、一審の佐賀地裁と二審の福岡高裁が5年間の開門を命じた。いったん門を開放し、魚など増えるかどうかを調べるのが目的だ。

 一方、営農者側は、開門すれば農業用調整池に海水が入り、営農に支障が出るなどとして反対してきた。今回の判決は「開門で農地に塩害などが生じ、営農者の生活基盤に被害が出る」とした。

 鋼鉄板を次々と海に落とし込んで湾を締め切った「ギロチン」から、今月で丸20年になる。その間、開門問題は政治の思惑に揺れてきた。開門を命じた福岡高裁判決を、民主党政権の菅直人首相は上告せず受け入れた。一度動きだすと止まらないと言われた大型公共事業を見直すことによって指導力を示す狙いも透けた判断だった。

 自民党は干拓事業を推進してきた立場だ。今回の訴訟でも国は、負の側面である漁業被害を正面から取り上げることなく、棚上げした。これが「開門しても漁場環境が改善する可能性は低い」とする司法の判断につながった。

 諫早開門を巡っては、ほかにも6件の訴訟が乱立する。長崎地裁は今回、その打開に向けて和解を模索した。だが、むしろ浮き彫りになったのは対立の根深さだった。開門はせず、その代わりに100億円の漁業振興基金を設けて国が海の再生に取り組むという和解策を目指したが、関係する漁業団体の全てから賛同を得るには至らなかった。

 今後は国の対応が焦点となる。控訴せず、開門差し止め判決が確定すれば、先に出た福岡高裁による開門命令の執行力は失われる、という見方も一部にあるようだ。ただ、国は現在、開門できずにいることへの制裁金(1日90万円)を漁業者側に払い続けており、その額は8億円近くに上る。仮に差し止めが確定した後も公金支出が続くとなると、納税者の理解が得られるとは思えない。

 資源に恵まれた海が、有明海周辺の人々を翻弄(ほんろう)する「対立の海」となった状況をいかに打開するか。農業か漁業かという構図を乗り越えた協議の枠組みづくりを国は粘り強く模索しなくてはならない。漁業不振の原因に関する科学的知見も蓄積し、解決の糸口を探ることが求められる。

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